映画「はりぼて」レビュー

2016年から発覚した富山市議会議員の政務活動費不正受給問題を記録したドキュメンタリー映画である。

“富山市議会のドン“中川勇氏に始まり、半年の間になんと14人もの議員がドミノ辞職する事態になった顛末。
追求したのはローカルテレビ局の「チューリップテレビ」だ。
当時アナウンサーだった五百旗頭幸男(いおきべゆきお)氏と報道記者・砂沢智史(すなざわさとし)氏がリアルタイムで報道し続け、2020年に監督としてこの映画を世に送り出した。

金沢での上映館はミニシアターの「シネモンド」だ。
観客はほぼ満員だった。
富山と金沢はお隣さんで県庁所在地同士、つながりは深く、特有のライバル意識があり、仲の悪さもよく指摘される関係である。
また、どちらも保守王国で体質的に同じではないかとの思いがある。
この映画への注目度が高いのも当然だ。

映画では、疑惑の議員に対してチューリップテレビの二人がインタビューをする。
ファーストコンタクトでは議員側は余裕しゃくしゃくである。
しかし自分に突きつけられた刃が「真剣」であり、かわすことができないと悟るや表情が一変する。
急にしどろもどろになるか、沈黙せざるをえない。
そして場面は急転直下、辞職会見のシーンに変わるのだ。
その際の表情は数日前の「わしは先生様でござい」と言わんばかりの自信満々なものとは打って変わってこの上なく情けなくしょぼくれたものとなる。

この変貌は観る者に滑稽に映り、客席からはたびたび笑いが起こった。
これは本当に現実の出来事か?フィクションではないのか? そう疑ってしまうほどに呆れた展開が続く。
渋りはてた彼らの言動はコメディそのものではないか。
編集テクニックのなせる技もあって、登場する富山市議会議員達はあまりにも愚かしく、あまりにも非常識に描かれており、その傍らにいる富山市長は「私はコメントする立場でない」とあまりに無責任な印象を与える。

人間、弱みを突かれたらなんと情けない姿を晒すものか。
攻めている時は勇ましいが、守りに入った途端に醜い本性を現す。

ひるがえって自分は大丈夫だろうかと考えた。
私は政治家でないし、権力者でもない。
会社のお金、人のお金を着服するようなことはしていないし、何かしら不正に加担している自覚もない。
しかし、自分の行動が100%オープンになったと仮定して、100分の100、天地天命に誓ってやましいことはない、と言い切る自信はない。
たとえば、皆が職場で働いている時間中、プライベートなことに時間を使うこともある。
もし誰かにそこを突っ込まれると返答に窮すだろう。

本映画のように数千万円の税金が不正に流用されるレベルではない。
しかし私の”勤務時間中のサボりのようなもの”は、事の本質においてたぶんそれほど変わらない。
言わば本人からすればちょっとしたズル。
金銭感覚に大いにズレはあるにせよ「ま、これくらいは」と思っている部分において、議員も私も変わらない。
議員の場合は市民の税金を着服したことになるので罪は大きいが、私だって会社から給与を得ているのだ。

もし私のズルが発覚し、部下からどういうことかと詰め寄られたとする。
私は社員たちの前でとんどもない醜態を晒すのではないか。
そんな怖さを感じた。

富山市議会議員の世界にあまりにも非常識な慣習がはびこっていたために、非常にわかりやすい内容の映画となった本作。
ただし疑問もいくつかある。
なぜ五百旗頭氏は退職し、砂沢氏は異動になったのか。
チューリップテレビとの間で問題があったのか。
ならばこの映画をチューリップテレビが配給しているのもよくわからない。

また、不正に着服された数千万円の政務活動費は、何に使われたのかが明らかでなかった。
単に議員のポケットマネーになったのか、それとも何らかの政治活動に回っていたのか。
不正に手を染めなければならなかった根底をえぐって欲しかった。

そして身近で素朴な疑問。
我が街・金沢はどうなのか。
ぜひ対岸の火事とせず、地元メディアの検証を期待したいところである。

五百旗頭氏はチューリップテレビを退職して石川テレビに来たらしい。
そのうちお会いする日も来るかもしれない。