連続テレビ小説「エール」レビュー

NHK朝の連続テレビ小説「エール」がこの日、終わった。
最終回はNHKホールからの特別企画で、キャストが総出演して古関裕而の名曲をライブで歌うものであり、物語自体は昨日26日で終わっている。

朝ドラは2015年の「まれ」以来すべて観ている。
過去の人気作「カーネーション」「ちりとてちん」もDVDで観た。
このように、私は一応“朝ドラファン”である。
ただし、名作だったと思える作品は多いわけではない。

「エール」は、個人的にはベスト3に入るいいドラマだった。
作り手がまじめに取り組んできたのが伝わってくる。
特に戦争以降の後半は、重く暗い時期を逃げずに、流さずに描いた。
史実はどうだったか、実際の人物像はどうだったかは横に置く。
ドラマとしてはとても誠実に作られ、感情移入できるシーンが数多くあった。

「エール」は数々の苦難に見舞われた。
主人公は1964年のオリンピックの開会式のテーマ曲を作った古関裕而氏がモデルであり、昨年の大河ドラマ「いだてん」とともに、今年開催されるはずだった東京オリンピックを意識してのタイミングだったが、コロナウイルスでその目論見は見事に飛ばされた。

重要な役回りの志村けんがコロナウイルスにより他界。
番組自体も途中で収録休止。
2週間分を短縮し、再編集を余儀なくされる(当初26週130回の放送予定が24週120回に変更)。

それでも、終わりよければ全て良し。
スタッフとキャストは苦難を乗り越えようとどこかで誓い合ったのではないか。
ドラマを通してそんなムードを何となく感じ取った。

主人公・古山裕一はクラシック音楽への情熱があるものの流行歌謡の世界に入り、やがて戦争で軍事歌謡の旗手となる。
悲惨な戦争体験を経て、自分が手がけた曲が人々を死に追いやったのではないかと自責の念にかられ絶望し、一時は音楽を捨て去る。
しかし、やはり歌を通して、曲と通して彼は復活を遂げる。

自分はいつの時代でも、懸命に生きる人々を勇気付け、応援することに誠心誠意向き合ってきたことに矜持を持ったのだ。
それがタイトル「エール」である。
テーマ性が極めて明確なドラマだった。

「長崎の鐘」のエピソードは秀逸だ。
そして「栄冠は君に輝く」の誕生秘話は先のブログで書いた通り今風の言葉で言う「神回」だった。

ただ一点残念だったのは、妻・古山 音(おと)の扱いだ。
史実では古関裕而氏の妻・金子氏はオペラ歌手として活躍している。
だがドラマではオーディションに合格するも、それは実力で勝ち取ったものではなく、実は夫の名声に配慮した製作者側の思惑だったことがわかり、出演を辞退するという展開になり、プロとしてキャリアもそこで終わってしまう。

二階堂ふみはこの作品にオーディション一次審査から受けに来ただけあって、非常に真摯に役作りに取り組んでいた。
その頑張りに報いる栄光を妻にも用意して欲しかった。

今回の新しい試みとして、ドラマ部分は月曜から金曜の週5回であり、土曜はその週の総集編とした。
土曜日の放送はほとんど見ずにパスしたが、ペースとして週5回はほど良い加減であり、ビデオの撮り溜めも比較的容易に追いついた。
今回、コロナで10回(2時間30分)が短縮されたことになるが、全体長も私にはちょうどよかった。

これまでの朝ドラは中だるみが必ずあり、どーでもいい回が挟まれていた。
尺を合わせるための帳尻合わせの面があったのだろう。
エールは、コロナという外部要素により10回分の短縮を余儀なくされたが、これが一つの作品の完成度としてはかえって功を奏したと思う。
(それでも途中、父親の幽霊登場など明らかに蛇足的な回もあったが。)
これを機に、土曜は総集編、放送回数短縮が常体にしてよいと思う。

余韻に浸る暇なく、新ドラマ「おちょやん」が始まる。
杉咲花はツボにはまったら日本一の女優だ。
大いに期待している。
ただし、作品は本当に、脚本・演出・役者が三位一体に揃って初めて名作となるだけに、どうなるかはわからないが。