「千と千尋の神隠し」を抜いて歴代最高の興行収益となった映画を4DXで観た。
ストーリーは原作に極めて忠実である。
違ったのは、お館様・産屋敷耀哉(うぶやしき かがや)が鬼殺隊の墓参りをするシーンを映画の冒頭に挿入したこと、序盤に列車に出るザコ鬼が一匹増えたことぐらいではないか。
いろいろな方の感想に、映画の前半の敵・魘夢(えんむ)の過去のエピソードがないとか、後半に出る敵・猗窩座(あかざ)の登場が唐突すぎるなどの批判があるが、どちらも原作どおりである。
総じて、アニメ製作会社のufotable(ユーフォーテーブル)は非常に良い仕事をした。
①原作のストーリー、メッセージ性を忠実に伝えようとしている。
そこには製作側の原作に対する非常に強いリスペクトを感じる。
たとえ原作の内容を変更したとしても、作り手の作品に対する敬意や愛情は漏れ伝わってくるものだ。
ちなみに4DXもなかなか凝っていた。
単にアクションシーンで座席を動かすだけでなく、水の呼吸で本当に水が顔にかかってきたり、刃を突き刺すシーンで背中に固いものが刺さってくる刺激があったり。
設計者はかなり頭をひねってプログラムしたであろう。
②原作の弱点である画力の乏しさを補って余りあるクオリティを提供している。
例えば、背景に実写映像や3D効果を多く取り入れ、キャラのベタなアニメタッチに意識的にかぶせることで新しいアニメ映画の完成形を見せている。
ただ、この映画を十分に楽しむには予備知識は必須だ。
原作を知らなくても、それなりに楽しむことはできる。
しかし、鬼滅の刃が人々の琴線に触れるのは、主人公竈門炭治郎(かまどたんじろう)の純真な心、不撓不屈の魂、自己犠牲をいとわぬ無限の愛情である。
妹・禰豆子(ねずこ)がなぜ鬼になったか、なぜ自身が鬼狩りをしているかといった背景を知らずして感動は得られない。
わたし的にこの映画で一番グッときたのは、魘夢が見せた悪夢- 鬼に殺された家族たちが炭治郎に恨みをぶつけ、罵る夢- に対し、炭治郎の怒りが沸騰し覚醒するシーンだ。
「言うはずが無いだろうそんなことを!俺の家族が!俺の家族を侮辱するなアア!」
これも原作どおりの展開・セリフなのだが、迫真のアニメーション処理、声優の熱演も加わって、原作以上にこみ上げてくるものがあった。
夢から醒めるため、炭治郎は夢の中で自決する。
このアイディアは素晴らしい。
そして、連続して被弾する夢攻撃のたび、かかった直後に自決を果たし覚醒を繰り返す。
そのアイディアは壮絶だ。
なぜ主人公はそんなことができるのか。
『私をはるかに超え、愛する人のために、大切な仲間のために』に尽きる。
自分のことで感情が荒ぶることはないが、家族や煉獄杏寿郎の死に臨んでは、悲しみや怒りを爆発させる。
アニメ史上最大と言ってよいほどの大粒の涙を流してワンワンと泣いた。
逃げる敵に対し、わめき叫びながら怒りをぶつけた。
これほど真正面から感情をあらわにする映画は意外に少ないのではないか。
特に子供向け映画では。
感情移入が自然に起こるには、観客はその分、残酷な描写、容赦ない登場人物の死とも向き合わなければならない。
それをきちんと見せている点で「鬼滅の刃」はとても良い映画であると感じた。