NHK BS1スペシャル「豊洲市場 コロナ禍の5か月」
放送日:2021年2月23日 午後8:00~午後8:50 (50分)
昨年9月4日に初めての感染者が出て、11月にはかなりの数に上った豊洲市場・水産部のドキュメント番組である。
前身は言わずと知れた築地市場。
水産では日本最大の卸売市場であるだけに、感染拡大は衝撃は大きかった。
豊洲に仕入に来るのは業務筋が多い。
外食産業の営業自粛でただでさえ売り上げは減少していた。
大手仲卸では前年比で10億円以上の売上減。
でも水産の仲卸業者は踏ん張っていた。
新しい販売先を開拓しようと宅配事業に乗り出す業者もいた。
そこへきて秋口からの市場内感染は痛打だった。
市場そのものを閉鎖しようかという意見まで出た。
水産仲卸組合は組合員(水産仲卸業者の従業員)全員のPCR自主検査を呼びかけた。
自主検査は両刃の剣である。
しかし、市場の信用を守り、継続的な運営を続けるため、血を流す道を選んだ。
水産仲卸のリーダー陣は立派だと思う。
ただし検査を受けない人も2割ほど出た。
零細な仲卸は1~2人の家族経営である。
そこでもし陽性反応が出たら即廃業を意味する。
全員検査といっても任意であった。
その仲卸の経営状況を考えれば責められない。
結局、その一斉検査では3,111人中、71人が陽性だったそうだ。
(豊洲の水産仲卸では現在までの感染者累計は160人に上っている。)
陽性率2.3%。
これは決して高い率ではない。
私は、市場の人々は感染対策に繊細に対応し、注意深く来られたのだと信じる。
だが、豊洲は一つの島のようなものだ。
たとえ2.3%でも、外の人が見ても中で働く人から見ても汚染島のように感じられたのではないか。
豊洲は「閉鎖型市場」であり、コロナでもろに裏目に出た、という見解も番組内であった。
私はこれは勘違いだと思う。
たしかに豊洲はコールドチェーンを強く意識して閉鎖型構造になっている。
しかし、換気設備もしっかりしているはずだ。
もし閉鎖型に問題があるのなら、青果棟でも同じように感染者が出たはずだ。
今回、青果棟では幸い感染者はほとんど出なかった(と聞く)。
だが豊洲の水産の場合、仲卸棟の狭隘さはひどい。
なぜ広大に建て替えたのに仲卸店舗はかくもせまっ苦しいのか、その設計コンセプトは全く理解できない。
番組内では、閉鎖型を回避するため、シャッターを全部開放したとの話もあった。
豊洲の高度な機能を捨て去ってしまったわけだ。
なんともやりきれない。がこれも仕方なかっただろう。
年が明けてさらに状況はさらに悪化する。
顧客からの仕入注文のキャンセルの嵐だ。
末端の外食産業には時短営業に対して助成金が出るのに、中間流通段階にはまったく支援がないとの不満が巻き起こる。
ようやく40万円の一時金が出ることになるが、コロナのために売上が50%以下になった場合という条件が付く。
バカな。
50%も売上が落ちたら、40万円ぽっちもらったところで会社は持たない。
この支援策の皮膚感覚の欠如にはあきれるばかりだ。
政治家やお役所は所詮他人事としか思ってない、と業者が怒るのももっともである。
私は番組を観て沈鬱になったと同時に、感動もした。
仲卸の社長さんが繰り返し言った。
“我々には食品流通を守る使命がある”
“絶対に(流通を、商売を)止めちゃいけない”
まったく他人事ではない。
生鮮食品を一日も止めることなく安定供給し続けることが卸売市場の存在意義である。
そこで働く者にとって、この使命感こそが仕事における矜持なのだ。