書評:高市早苗 著「美しく、強く、成長する国へ。」

総裁選ドンピシャ本

 高市早苗 著「美しく、強く、成長する国へ。-私の「日本経済強靱化計画」-」を読んだ。なんせ今、自民党総裁選が熱い。9月17日に闘いが始まったわけだが、本書はその2日前9月15日を発売日に設定した、まさに狙い撃ちドンピシャ本である。オビには「初の女性首相へ」とまで書かれている。

政策オンリーで面白くないが…

 本書は正直、面白味はない。ただしそれは野次馬的意味でだ。本書の中身は丸々、高市氏の政策で埋め尽くされている。政治家が出す本は、幼少期からの生い立ちや政治家を志した経緯が何割かを占めるのが普通だ。人によっては肝心の政策論が薄いことも少なくない。本書は真逆である。すべてが(私が首相になったら)ああする、こうする、のオンパレードで、かなり細かく具体的に踏み込んでいる。私のような不勉強者には知らないこと、意味の分からない箇所が多かった。

本書の物凄さ

 だから面白くない。しかし、だから凄い。すべての政策が自分の血肉に昇華されている証。しかも高市氏は原稿をライターの手を借りず完全に一人で書き上げている。「なので文章が稚拙なんです、ごめんなさい」と本人はインタビューで応えている。今の日本の政界に、ここまで国家感と政策を滔々と述べられる政治家はどれだけいるだろう。総裁選出馬の記者会見の際も、答弁はよどみなく堂々としていた。憲法改正、靖国、夫婦別姓、皇室継承、対中国北朝鮮など、メディアは右寄り・タカ派と色付けし警戒する向きはあるが、一国のリーダーたる覚悟、それを裏付ける知識と見解の充実ぶりは群を抜いているように感じる。

同席した時の印象

 高市氏については、まだ20代の若さにして討論番組「朝まで生テレビ」で田原総一朗を相手に一歩も引かない論客としてならした頃から見ている。その後政治家となり、今から15年前の2006年5月、「金沢政策フォーラム」という会で高市早苗氏と会う機会があった。岡田直樹参議院議員を囲む経済人の勉強会に高市氏を招いたのだ。なんと腹の座った人かと、気圧された記憶がある。本書は、その時も感じた政治家の覚悟そのままに、今日まで積み上げてきた国家感と政策を余すところなく披露している。

表のメディアと裏のSNSの試金石

 本書はアマゾンでは発売前から予約が相次ぎ、総合ランキング1位にまで上りつめた。物凄い注目度だ。テレビや新聞での総裁選の下馬評は河野氏、岸田氏に続く3番手だが、SNS上では高市氏への注目度が突出している印象を受ける。この総裁選は、表のメディアと裏のSNS、どちらがより世評を反映しているのかを計る試金石になるのではないかと注視している。