渋沢栄一の生涯;なぜ今までドラマ化されなかったのか
なぜこのような歴史の巨人 〜波乱万丈の人生、数々の偉業を成し遂げた人物〜 が今までドラマ化されなかったのだろう。皆が大好きな幕末、しかも倒幕派から一橋慶喜に仕えるという大転換、西郷隆盛や土方歳三、伊藤博文らと深く親交し、明治になって時の要人ひしめく政局・経済の中枢に立った「日本資本主義の父」だ。著書「論語と算盤」は読んでいたが、不勉強にしてその生涯と業績についてほとんど知らなかった。かくも激動の人生を送った人とは。ドラマ化がほとんどなかったのはまったくもって不思議である。
言葉の力
おそらくは、経済人としての業績が際立っているため、チャンバラや戦(いくさ)の見せ場がない上に、経済界や政界での活躍がドラマとして描き辛かったというのが理由だろう。よって、この大河が面白いかどうかは、渋沢栄一が発する「言葉の力」にかかっていた。彼が何を成し遂げ、いかに生を全うし、人々をどう動かしたか。その業績、行動に説得力を持たせるのは彼がドラマで発するセリフ=「言葉の力」であった。よって、脚本家・大森美香の筆力が一番の肝であり、彼女は見事にその務めを果たした。そして、吉沢亮は大河主演の大抜擢の期待に応え、骨太い渋沢像を体現した。
利他の心と英雄色を好む
私にとって、偉人の史実、生涯、業績を知らず、大河ドラマで初めて教えてもらったのは「いだてん」以来である(そういえば、いだてんにも橋本愛が好演していた。彼女はNHKから愛されている)。渋沢栄一は財閥を形成せず、一族で富を独占しなかった。あくまでも世の中全体を豊かにするための獅子奮迅。利他の心 ここにありだ。ただし、女遊びはかなり激しかったらしく、その点をドラマでは妾一人にとどめていた。現代の価値観では品行方正な人物とは言えないが、乱世の価値観では英雄色を好むの典型で、奥方様の心情を別にすれば、当時はそれも人気の一因だったかもしれない。
見応えある大河ドラマ
ドラマに「言葉の力」は重要だ。いやドラマに限らない。人生において「言葉の力」は重要だ。「青天を衝け」で改めてそのことを認識した。非常に見応え、聞き応えのある大河ドラマであった。