北京五輪が終わって心に残ったもの
北京オリンピックが終わった。日本は冬季五輪史上最多の18個のメダル(金3、銀6、銅9)を獲得した。高木美帆はメダルを4つ取り、平野歩はスーパージャンプを見せた。だが大会が終わって強く印象に残ったのは、アスリートの挫折した姿だった。
羽生敗れたり
その筆頭は羽生結弦である。ショート冒頭の4回転ジャンプで足がリンクの穴にはまり、8位に出遅れる。フリーでは史上初めて4回転アクセルの認定を受けるが、着地は失敗し総合4位でメダルを逃す。結果だけを見れば栄光からの転落だ。だが羽生の場合はそれで終わらない。その後のコメントが圧巻だった。
報われない努力
『人生って報われることが全てじゃないんだなと。ただ、報われなかった今は、報われなかった今で幸せだなと。不条理なことはたくさんありますけど、少しでも前を向いて歩いていけるように、頑張っていきたい』…これはもう、煩悩を断ち切り悟りの境地に達した僧侶の言葉である。
9歳の自分が心の中で語りかける
『僕の心の中に9歳の自分がいて、あいつが跳べって言っていたんですよ。で、ずうっとお前、下手くそだなって言われながら練習していて。でも今回の4回転半は、なんか褒めてもらえたんですよね。一緒に跳んだというか。…中略…最後に壁の上で手を伸ばしていたのは9歳の俺自身だったなと思って。で、最後にそいつの手を取って、一緒に登ったなという感触があって』…これはもう、自分自身と何万回も対話をし尽くした詩人の言葉である。
敗れし者に幸あれ
他にも女子スキージャンプの高梨沙羅の失格と直後の大ジャンプ、金を目前に最終コーナーで転倒した高木菜那の号泣と背中をさする押切美沙紀、ワリエワのドーピング問題とフリーでのミス連発…など、敗れ去る姿が衝撃的なものが多々あった。スポーツであれ人生であれ、自分たちの力では及ばない、見えない何かに翻弄されることがある。頂点を目指すアスリートは他のすべてを犠牲にしてきただけに、〝ちゃんと負けずに〟終わってしまった場合、心のケアが懸念される。高梨とワリエワにはなんとか立ち直ってほしい。大袈裟に言えばこのあとの人生で幸せになってほしい。羽生の言葉をもう一度借りれば、世の中に不条理なことはたくさんあるけれど、少しでも前を向いて歩いて頑張ってほしい。そんな思いが強く残った五輪であった。