ネットによる価格破壊
最近、あるポスターを作るのに印刷会社に見積もりを依頼したところ、思っていたより格安だった。安いのは結構なことだが、理由を聞いて複雑な気持ちになった。デザイン料は普通だが、プリント代金の単価が安い。その印刷会社では社員がデザインしてデータを作るまでを行い、プリントはネット上の専門業者にやらせる。ネットによるプリント単価が、地方の印刷屋より格段に安いのだ。この仕組みが普及したことによって、地方の町工場はどんどん廃業に追いやられている。私の頼んだ印刷屋は、印刷といってもデザインを主にしているため、なんとか事業が続いている。
ネット業者の強み弱み
プリント業界において、かってのネット業者は仕上がりが粗悪だった。品質を求めるならばやはり地元の町工場。そこに棲み分けがあったのだが、近年、プリント技術の成長はめざましく、ネット業界が品質面で遅れを取ることがなくなってきた。価格破壊の上に品質でも引けを取らないのでは中小企業は一層厳しい。しかしネット業界も万能ではない。今でもネット業者は色校正はできない。発注したらお任せするのみ。微細な色の調整はやはり町工場に利がある。さらに、仕上がりに何か不満足な点があったとしても、ネット業者は一切責任を負わないしとり合わない。クレームは受け付けませんということだ。町工場が付け入るすきはまだあるのである。
横領事件まである
ひどい話も聞いた。ある印刷会社では、社員がネット業者を悪用して横領を働いた。手口はこう。顧客に対しては正規に印刷を請け負い、代金を徴収した。ところが裏でプリント部分をネット業者にやらせ、自社の印刷代金との差額を着服した。実話である。
モノでなくサービスを売る
印刷の内容や用途にもよるが、私は地元企業を使うことのメリットを見つけ、そちらを優先するようにしたい。今回の場合は、刷ったポスターを保管してもらえるので、ネット印刷ではなく、(少々単価は割高でも)町工場を使うことにした。地元企業が生き残るためには、ネット大手にはできないきめ細やかなサービス、提案能力、親和性が重要である。右から左にモノを動かすだけの商売は何のジャンルであれ成り立たなくなっているということだ。青果物業界、市場流通業界も対岸の火事ではない。モノではなくサービスを売る意識が必要だ。