レビュー:連続テレビ小説「カムカふムエヴリバディ」

朝大河ドラマの大団円

 NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」が最終回を迎えた。朝ドラ史上初の3人のヒロインを起用し、母娘3代100年の物語を描いた。私は放送の開始前から大いに期待した。理由は二つある。脚本が藤本有紀氏であることと、二人目のヒロインが深津絵里であることだ。そして全話を観終わっての結論は、期待通りの『朝の連続大河ドラマ小説』であった。

脚本家 藤本有紀

 「カムカム~」以外は2作しか知らないが、私は藤本有紀氏のファンである。知っている2作とは朝ドラ「ちりとてちん」と大河「平清盛」だ。「ちりとてちん」はコメディチックで「平清盛」はメンヘラ群雄劇。あまりにも作風の違う2作を藤本氏は手掛け、両方ともに私はドはまりした。脚本家が同一人物と知って驚いたのは後の話である。ちなみに「ちりとて」も「清盛」も低視聴率だった。藤本氏は決してヒットメーカーではない。だがコアなファンが多いことで有名だ。

強引だけど全然OK

 カムカムは上記2作とは違って、視聴率は良かった。100年に渡る物語でテンポがすこぶる良く視聴者を飽きさせない。3代のヒロインを繋ぐのは小豆のあんこ、ラジオ英会話、時代劇「棗黍之丞(なつめきびのじょう)シリーズ」だ。伏線を広げるだけ広げ、朝ドラにしてミステリー要素も付加した。最終週にして若干無理を感じさせる伏線回収に、「強引すぎる」との批判もあったが、この程度の非現実性はドラマには全然OKだ。

川栄李奈も良かった

 川栄李奈はNHKに愛されている女優である。大作ドラマ抜擢が続いたが、今までは正直どこがいいのかわからなかった。それが今回ようやく良さを理解した。アップに耐える透明感、周囲からの仕掛けに素直に翻弄される純朴さ。主役を務めるのに必要な才を持つ女優さんだ。

ダメだし 私が演出家なら

 残念な点を二つ挙げる。一つ目はなんとか頭を捻って、深津るいと上白石やすこの共演をワンシーンでよいから実現してもらいたかった。これは演出構成上というより、役者的醍醐味論である。二つ目は第109話、森山アニーがラジオ放送中にカミングアウトをするシーン。5分に渡る深津絵里のドアップ長回しの演出だったが、惜しいことに何度かカメラの切り替えがあった。ここは最初から最後まで1カットで通して欲しかった。るいが「え?」となって「もしや」となって「すわっ」となって最後無表情で涙を流す。一切カットせずに魅せてほしかった。そして私が演出家なら、もっと極端な冒険をする。第108話の最後でアニーに日本語で「観ました」と言わせて一旦「to be continued」とし、第109話は冒頭から深津のアップで「観ました」から始まり、全編ドアップ、ノーカットで終了する。15分間ノンストップ長回し。しかも主役は終始無言だ! 実現していれば朝ドラ史上初かつ最後の演出となったことは確実で、話題性は爆弾級になったはず。5分の3倍、15分間のラジオモノローグは至難の業だが、それこそ藤本有紀の腕の見せ所である。そして深津絵里ならそれができる。これも役者的醍醐味論の話だ。良いクライマックスだったからこそ、さらに上ができたのではと感じた次第。さすが藤本有紀、さすが深津絵里であった。