人生60年近く経って、生まれて初めて「ひよこ」に行った。石川県金沢市菊川にあるステーキ専門店である。知る人ぞ知るお店だ。そして、大変美味しくいただいた。もう思い残すことはない(笑)。
「ひよこ」とは
外見はプレハブ仕立てで8人くらいしか座れないカウンターのみ。外から見るだけではとてもここが名店とは思えない。見かけによらず…とはこのことだ。メニューも一品だけで、12,000円のヒレステーキだ。ライスもなし。とにかくステーキを食べる。それのみで58年続いてきたお店である。ネットで調べた情報で付け焼き刃の知識だが、創業は1964年2月とのこと。私が生まれて1年ちょっとだ。店主は林さんとおっしゃるらしい。80才を超えるおじい様だった。肉は黒毛和牛のヒレで、納得のいくものが手に入らないと店を開けないという話を聞いたことがある。
超近くて超縁遠い
まさにこのお店一筋。私は物心つく時分から存在自体は知っていた。なんせ家からすぐである。今の家から歩いて10分足らず。その前のマンション住まいの時は歩いて1分だった。それなのに一度も食べる機会がなかった。予約はいつもいっぱいでなかなか入れないという先入観があった。それを縫ってまで食べに行こうとは思わなかったのである。
若きお客と老境の私
今回、ポコっと時間ができたので、ダメ元で電話してみた。すると今晩2人だったら空いてますよという。次男坊を誘って行くことにした。息子め、まだ18才のくせにラッキーなやつだ。注文し、ビールを飲んで待つつもりだったが、思いの外あっという間に出てきた。息子はバクバク早いペースで食べ始める。おい、父さんはくつろぎたいんだ。もっとゆっくり食え、と言いながら私も食べる。その時、客は私ら二人だけだったが、後から若い女性3人連れが入ってきて横のカウンター席に座った。当然、程なくして同じステーキが出る。そして彼女たちはペロペロっと平らげ、私らよりも早くお店を出ていった。300gのステーキを一気である。この娘さん達がすごいのか、若者とはそんなもんなのか、はたまた私が老境に入ったからか、この時間差に少々驚いた。
ステーキを食べるという目的があるのみ
噂に聞く以上にやわらかいステーキで堪能した。このお店は本当にペロペロっとステーキを食べるためのお店なのだ。社交の場ではなく、デートの場でもない。そして食事をする場ですらないと言える。肉を、ステーキを食べる場なのだ。ステーキを食べたいと思った者が純粋にステーキを食べることに特化したお店。それが名店の所以ではないかと感じた。こだわりが昇華した形である。そして私は念願の「ひよこ」を体験した。もう思い残すことはないのである(笑)。