映画レビュー:シン・ウルトラマン

久々に胸高鳴る

 特撮ファン期待の話題作「シン・ウルトラマン」を観た。私の世代はウルトラマンへの思い入れが強い。さらに企画・脚本が傑作「シン・ゴジラ」を作った庵野秀明だけに期待は大きかった。映画館の席に座って開始を待つ間、いい年して高揚感があった。

冒頭15分でガス欠感

 映画が始まるや、のっけからフルスロットルだ。怪獣、いや「禍威獣」が次々に登場し、「禍特対」が登場し、ウルトラマンも即降臨、スペシウム光線一閃で初戦が決着だ。スピード感は素晴らしく怒涛のたたみかけは痛快である。しかし、そんなにいっぺんに出してこの後2時間テンションが保つのかと心配になった。その不安は的中する。結局、冒頭15分が一番面白く、あとは時間が経つにつれ退屈になった。下ネタでたとえると、性欲にまかせていきなり激しく一発やったが、時間がまだたっぷりあるので違うプレーを何度かつなげたけれども一発目ほどの興奮はなかった、という感じだ。

美しきウルトラマン!

 良い点はある。ネロンガを倒した銀色の巨人は美しかった。成田亨の描いたウルトラマンのコンセプトは〝真実と正義と美の化身〟。本映画でウルトラマンはカラータイマーが取れ、背びれ(チャック隠し)も取れた。原初のデザインをリスペクトする制作陣のこだわりであろう。本来のマンは銀色一色、人間と融合し銀と赤(人の血の色?)になったのだろうか。私は、ウルトラマンの〝人型だが人間離れしたスタイルとデザイン〟にとても神秘性を感じるので、この美しさはとても良かった。(だが、逆に、エネルギーを消耗した時の緑色!これはいかがなものかと思った。)

こだわりは何だったのか

 映画の冒頭を激しさと美しさでかました以上、その後の1時間半は秀逸なストーリー展開で続けなければ興奮が続かない。しかしそこは駄目だった。製作陣(おそらく庵野秀明個人)のこの映画にかけるこだわりは何だったのだろう。何を打ち出し、何を新しくし、何を守ろうとしたのか。公開のはるか前より、岡田斗司夫氏がYOUTUBEでストーリーを予測していた。メフィラス星人を出す、日本国と異星人との安全保障を描く、巨大フジ隊員をやる、マンの登場からゼットン・ゾフィーまで全部やってしまう等々、かなりの部分で的中させたのはさすがだ。だが私にはそのネタにこだわる意味がわからない。巨大長澤まさみのシーンは設定的にも映画技術的にも正視に耐えなかった。メフィラス星人は中途半端に逃げ出し消化不良。ゼットンは怪獣ですらない(「禍威獣」ではあったのかね…)ので興味が失せてしまった。

激突のカタルシス不足

 ウルトラマンと大怪獣との戦いのカタルシスと、科特隊(字は「禍特対」でもいいけど)をはじめとする人類の奮闘がウルトラマンの魅力と思う。人型型神秘ヒーローと獣型怪獣の肉弾戦こそ醍醐味である。本作ではそれがガボラ戦だけで物足りなかった。

人間の扱いが軽い

 シン・ゴジラが面白かったのは、人間たちが知恵をふり絞って正体不明の大怪獣に挑んだからである。TVシリーズでも科特隊がその役目をしっかり担っていた。だが本作の「禍特対」は密室で井戸端会議をしているようにしか見えない。巨大怪獣や異星人に結局勝てなくとも、命をかけて闘いを挑む人間の勇気ある姿が心を打つのである。本作には、人として感情移入する場がなかった。シン・ウルトラマンは大きく期待していただけに私の感想は残念の一語だ。マニアがにんまりするためだけのオタク映画だったのか?シン・ゴジラは万人に届くものがあったぞ。庵野秀明氏は天才だと思うからこそ今回は残念だった。次のシン・仮面ライダーに期待する。