玉三郎 勘三郎 海老蔵
平成歌舞伎三十年史
中川右介
文春新書
タイトルどおり、平成約30年の歌舞伎界の流れを綴った書である。
筆者に思いはある。
タイトルの3人に対する畏敬の念であり、歌舞伎界の歩みを世に残しておこうという使命感であり、そして未来に対する大いなる期待だ。
しかしそれらは露骨に表には出さない。
あくまでも歌舞伎界の流れを淡々と紡いでいく中で浮き彫りにする。
いついつに誰がどんな演目をこなしたかをほぼ時系列に示していく。
よくぞここまで細かく記録したものだ。
そしてスーパースター3人それぞれの進んだ道。
稀代の女形・中村歌右衛門から玉三郎への系譜を「阿古屋」の継承を通して語るくだりは非常に面白い。
時代の寵児としてまだ数十年はやれるはずだった勘三郎の早すぎる死はなんとも無念である。
そしてすでに数々の伝説的エピソードを残す絶対的エースながら、本領発揮はまさにこれから、という不世出の花形役者、市川海老蔵は團十郎襲名後にどう発展していくのか。
私は歌舞伎にはまだまだうといが、これからのことがとても楽しみになる。
中村勘三郎、12代市川團十郎、坂東三津五郎らが世を去ったが
猿之助もいる。勘九郎や七之助、菊之助や幸四郎もいる。
もっと若いところで尾上右近も面白い。
歌舞伎界はいいのがゴロゴロいる。
そういう魅力が自然に伝わってくるのも、著者の歌舞伎に対する愛情の深さゆえだろう。
しかし、これほど歌舞伎界に詳しい著者をして、独自で取材してつかんだと思われるネタはただの一個もないのである。
公の出た情報がネタのすべて。
興行記録、新聞雑誌、テレビなどをくまなくチェックしてまとめたのが本書である。
表に出ていないが実は真相は・・・という類のものは一切ない。
つまり、筆者は単なるファンなのだ。
無茶苦茶詳しい歌舞伎ファン。
もう何冊も歌舞伎本を書いているが、もしかしたら歌舞伎役者達とは面識すらないのではないか、と思わせるほど筆者と歌舞伎役者の間には距離がある。
海老蔵に、中川右介さんって知ってる?って聞いたら、誰それ?って答えそうな。
しかし、距離があるからこそ、この本の内容はピュアである。
筆者は歌舞伎の他にもクラシック、マンガ、歌謡曲などにも精通しているらしい。
きっと、どのジャンルもスタンスは同じような気がする。
あくまで一般人の立場から、純粋に作品を鑑賞し、情報を集める。
あくまで遠い距離から。
別に内部に深く立ち入った人しか本を書いてはいけない決まりなどないのだ。
距離があるからこそ、内容はピュアになる。
