「バチェロレッテ・ジャパン シーズン1」レビュー

【ちょいネタバレ】

Amazonプライム・ビデオで配信されている恋愛リアリティ婚活サバイバル番組「バチェラー・ジャパン」の男女逆転版。
今度は女が選ぶ番!という副題がついている。
モデル兼スポーツトラベラー(なんだその職業)のバチェロレッテ・福田萌子をめぐって17人の国際色溢れる男性陣が争う。

コロナ禍により(その理由ホント?)、当初夏に予定されていた配信が大きく遅れ、10月9日からとなった。
その代り初回4話、その後毎週2話ずつリリースされ、10月30日に全10話の配信を完了した。
結果的にテンポ良く観られて非常に良い処置だった。

まず率直な感想。
面白い。ヒジョ~に面白かった。
一切筋書きがなく、参加者たちのガチのアドリブで進行しているのならば、彼女彼等の即興能力は素晴らしいし、それを支えるスタッフ力にも舌を巻く。
観終わってから物議をかもすだろう結末は、この先もずっと話のタネになる格好の酒の肴だ。

即興力。
「バチェラー1,2,3」のレビューでも書いたが、これは集団催眠に近い本気の戦いであって、いわゆるやらせではない。
ただバチェロレットを除く参加者達はこれが恋愛ゲームであることも熟知していて、頭の中10に1、2は演出家的な思考、つまり番組を盛り上げるため自分はどう振る舞えばよいか、を冷静に計算している。
芸人でも舞台役者でもないのに、どこでこの即興力を磨いたのか、感心する。

スタッフ力。
男子17人という数字はなんとも中途半端で、もう3人ぐらい集めろよとは思うが、この個性溢れるメンツを集めたスタッフ力は大したものだ。
そして、2話ずつ一気に配信したのも、バチェロレッテのグレードからいって短期決戦の方がよいと判断したものと推測する。
福田萌子という稀代の勘違いヒロイン(後述)が次々ルールを破る中、最後までまとめきったのは相当な構成力である。

そう。
あくまで個人的な見解として失礼な物言いをするが、バチェロレッテはそれほどの玉ではなかった。
私から見れば彼女よりローズ、黄皓、マラカイの方がキャラとしては上だ。
杉ちゃんに至っては、はるかはるか高みのステージにいる人だ。

だが彼女は自分をそう思っていない。
自分の存在・自分の価値観こそがすべて。
「私の人生は私が決める。これは私の物語。」。

…はいはい。
とんでもない勘違いだ。

これは「バチェロレッテ」という名の恋愛ゲームなのだ。
それを萌子嬢一人だけ理解しておらず、勝手に自分の人生劇場に見立てた。
闘う男たちはけなげにも真剣、本気で取り組み、数々の名勝負を生んだ。
一人、また一人と脱落し、ついに最終勝者が決まるクライマックスの時を迎えた。
その刹那、ヒロインがゲームそのものを「なし!」と宣言したのだ。
暴挙である。

麻雀に例えれば、南4局オーラス、「ローン!」と言って逆転のメンタンピン三色イーペードラドラ倍満の牌を倒そうとするヒーローを横から飛び出してきたヒロインが「やだーっ」とさえぎり、盤上をグシャグシャに崩してしまったに等しい。

それじゃゲームが成り立たないでしょう、ということだ。
2ヵ月にも渡って闘いを繰り広げた男どもをちゃんと終わらせてあげなさい。
ローズ、マラカイの2on1しかり、最終ローズセレモニーしかり。
萌子嬢が“決めない”限り、彼らは“負け”られないのだ。
将棋が負けそうになって盤をひっく返し、なかったことにするのがいいか、ちゃんと負けて「でも楽しかったね」とするのがいいかを考えればすぐわかる。
勝ちも負けもできないのは何もしなかったのと同じことだ。
すべては萌子嬢が決められないせい。
萌子嬢は”決めない”ことを”決めた”わけだが、要するにそれは勘違いの無能力者に過ぎないということだ。

その点杉ちゃんはすごい。
ラストの全員集合の場で最後にやったパフォーマンス。
あれのおかげで自分が救われたことをわかっているかな>萌子嬢。
“決められない”バチェロレッテのダメダメさが、「バチェラー3」に負けず劣らずのモヤモヤ感、指原莉乃言うところの胸糞悪さを残すところだった。
その事態を杉ちゃんが収めようとしたのではないか。
やらせは基本的にないと信じるが、あのパフォーマンスだけはもしかして…?と少しだけ疑っている。
あれでなんとなく優勝は杉ちゃんで、でもその後のお付き合いでやっぱり振られましたとさ…というストーリーに近い印象になった。

稀代の”勘違いヒロイン”福田萌子によって一時はゲーム不成立、番組崩壊の危機に陥ったが、その他全員が大人だったために超傑作に仕上がったのがバチェロレッテ シーズン1である。
結果的に、ゲームを否定する暴挙に出たからこそ面白かった。
このシリーズはヒーロー・ヒロインが非常識なダメダメ人間の方が盛り上がるようだ。
かえすがえすもこのカオスを一つにまとめたスタッフ力は恐るべしである。

YOU TUBEではこの先数週間はバチェロレッテ・レビューで大いに盛り上がるだろう。
それもまた楽しみだ。
世の中には優秀なコメンテーターがわんさかいることを知ることができたのも「バチェラーシリーズ」の功績である。