パラサイト 半地下の家族:レビュー

2020年のアカデミー賞作品賞を受賞した韓国映画『パラサイト 半地下の家族』を観た。
(日本での上映は2019年12月から)

映画前半部分は、主人公一家が身を欺いて富豪の家に寄生する様がコミカルタッチで描かれる。
普通に面白い。
しかし後半になるとトーンが一変する。
富豪一家も知らなかった秘密の地下室に第三の家族が寄生しており、上流階級層から下流層に向けた差別意識も徐々に露わになって最後は大惨劇が起こる。
ホラー調の悲劇だ。

韓国は日本以上に階級格差が厳しいと聞く。
その社会問題に正面から切り込んだ作品と言えなくもない。
しかし私はこの映画は基本的に娯楽映画と感じた。

まずどうしようもないバッドエンドにも関わらず後味が悪くない。
ラスト近く、洪水で半地下の住居が水没しても絶望感はなく、便所から汚水が噴き出してもカタルシスすら感じる。

最後、主要人物が何人も死ぬ展開になるが、あまり悲壮感はなく、どこか夢心地の気分にさせる演出を施している。

ポン・ジュノのエンターティメントへのこだわりではなかろうか。
韓国社会に現に存在する格差社会にメスを入れつつも、観客との間に絶妙の距離を作って暗黒の度合いを緩和する。

だいたいが主人公一家にリアリティがない。
それは恐らく意図的なものだ。
みな頭がすこぶる良いのだ。
極めてずる賢く、感性も豊かであり、行動力も抜群である。
こんな優秀な人々がなぜ下層階級から抜け出せないのか。
反対に、大富豪一家は能天気で、愚かである。

このリアリティのなさが、ラストの悲劇で観客を絶望の底に突き落とすことを防いでくれている。
基本的には観客に映画を楽しんでもらいたいというポン・ジュノのサービス精神のなせるわざだろうと勝手に解釈している。

大変面白かったし、数々の世界的な賞を取ったことに納得だ。
ただ、個人的には是枝裕和の日本映画「万引き家族」の方が心に残る。
(下層階級の家族を描くという意味では共通するが、テーマは全く違うので比べるのはあまり意味がないとは思いつつ。)
万引き家族は絆を描く。愛を描く。
ではパラサイトは?
そこまで感じ入るものはなかった。
が、それは私が万引き家族に特別な思いを寄せているだけのことであり、パラサイトを貶めるものではない。
本当に面白く、良い映画だった。