映画「種まく旅人~華蓮(ハス)のかがやき~ レビュー

この映画は金沢のれんこん農家を舞台にしたもので、私にとってご当地映画だ。
2019年9月にクランクインし同年10月には撮影終了、2020年2月に編集も完了した。
しかしコロナ禍で公開が延び延びとなり、ようやく今年4月2日に全国公開、ご当地石川県のみ3月26日より先行公開となった。

うちの会社は少額ながら協賛企業に名を連ねている。
映画のエンドロールでちゃんと会社名が流れてきた時はほっとした(笑)。

主演は栗山千明、平岡祐太。
栗山千明は、地域農業の実態を視察に来た農林水産省の役人・神野恵子役で、平岡祐太は加賀れんこん農家の息子・山田良一役だ。
良一は農業を嫌って大阪の信用金庫で働く身だが、実家の父が脳梗塞で倒れてしまう。
家は多額の借金もあり、良一は農業を継ぐか畑を売却するかの決断を迫られる…というストーリーである。

山田家のようないわゆる個人農家=家(父・母・子)の経営体が現代ではいかに厳しいかが、映画前半でかなり暗く描かれる。
一方で「高津農園」という名の会社組織が対照的に描かれ、そこでは女性の就農モデルについて問題提起がなされる。
今の農業が抱える問題、「後継者不在」と「女性の就農の在り方」に正面から向き合っていて評価できる。

そもそも映画の製作目的が地方の第一次産業に携わる人々の生きざまを描くことなので、登場人物達は基本的に善良で真面目である。
また、金沢の街並みや名所も織り込んで、ちょっとした観光PR映画の意味合いも帯びる。
よって役者の演技は、いわゆる日本アカデミー賞を争うような複雑な役作りではなく、もっとわかりやすくて(失礼ながら)ちょっと“くさい”演技・演出で進行していく。
ストーリーはほとんど読み筋通りに進行し、紛れはほとんどない。
安心して最後まで観れるし、最後はホロリと感動もさせてくれる。
非常にまじめな姿勢で仕上げた良質の正統派作品だ。

劇中、栗山が「日本の農業は未だ男尊女卑の風潮が根強く、女性の農業への進出を阻害要因になっている」と論じる。
男尊女卑…これはちょっとひっかかるところだ。
的を射ている部分は確かにある。
農業関係の会合でしゃしゃり出てくるのは親父ばかりだ。

だが、男を尊び女を卑しんでいるニュアンスとは違う気がする。
少なくとも、私が知る限りの農家の女性は、強く・元気で・明るい。
父ちゃんよりもよほど快活だし、たいがいは夫婦仲良く支え合っている印象だ。
女性の就農の在り方については、私ももっと地元農家の有様を調べてみたい。

映画は突っ込みどころも少なからずある。
東京からやって来た恵子は、いつのまにか良一よりも金沢に根付いている。
農林水産省はたかが視察でそんなに長期に出張できるのか。
良一の恋人役は農業を激しく拒絶していたくせに、いきなり泥田に入ってレンコンを見事に収穫していく。
脳梗塞で左半身が不自由になったはずのオヤジは、極太のレンコンをボキッと両手で折る。

まあ、そんなことはささいなことだ。
栗山千明は「呪怨」「死国」「キル・ビル」のイメージで若いころは怖い役が多かったが、最近はすっかりイメチェンし優しく明るいキャラが定着した。
この映画も好演だったと思う。
平岡祐太は人柄の良さが滲み出ていた。
この映画によって加賀れんこんの魅力が幅広い人々に伝われば本当にうれしい。

最後、どうでもいいことではあるが、私が働く金沢市中央卸売市場でもロケがあった。
だがこともあろうに青果売場ではなく水産での撮影だった。
レンコンをめぐる話なのに青果売場がまったく出てこないのはけしからん。
この点だけは厳重に製作会社に抗議したい(笑)。