金沢農業大学 市場研修

大切な農業担い手の卵たち

 金沢農業大学の生徒6名が早朝から市場に来場し、私が講師役となって研修を行った。「金沢農業大学」は、金沢市が運営する新規就農支援の教育制度である。生徒の年齢層は20代から60代まで幅広い。まったくの素人さんもいれば、農家の子どもや従業員で、すでに就農している者もいる。専門の校舎があるわけではなく、生徒は安原にある「金沢農業センター」に通って、農業の知識や青果物の作り方を学ぶ。すでに就農している人でも、基礎から学び直したいと思う人も受け入れている。通学期間は2年間。流通の勉強として、毎年市場にも勉強に来る。

現場での研修

 2時間程度お願いしたいとの依頼だったので、朝の5時半より現場(卸売場)で1時間の現地研修をまず行った。全国各地から集められる青果物の荷姿、等階級の別れ方、せり販売の仕組み、選別の重要性などを目で見て知っていただく。この日は「金沢市農業センター」が荷主である野菜も何品が上場されており、自分たちが実習で作った農産物がいくらで競り落とされるか、生徒さんたちは興味深々に見守った。
 彼らにとって良かった点として、加賀野菜として認定されている「つる豆」が小松市産「千石豆」より単価が高く競り落とされたことである。実は二つは一緒である。生産量は小松市の方が圧倒的に多い。しかし金沢市産ならば加賀野菜の商標である「つる豆」を名乗れる。小松市産はそれができない。はっきり言ってそれだけの理由で単価に差が出る。それがブランド力というものだ。
 逆のケースもあった。「農業センター」のきゅうりは、「金沢市農協きゅうり部会」よりも値が安かった。これもブランド力の差である。生産者は、品質や熱意で値段が決まると思いがちだが、流通の現状はそうとばかりは言えない。

座学での研修

 現場を1時間も歩き回ればくたびれる。だから後半は会議室に移って座学となる。ここで私が一番訴えたいのは市場と生産者とのパートナーシップである。生産者の中には市場に不信感を持っている人が少なくない。市場に出すと値を買いたたかれるという思い込みが多い。それは違うのだ。市場はできるだけ高く売りたい側だ。そして、それには永年にわたって信頼関係を構築していくことが一番だ、ということを事例を織り交ぜて説明する。単発の販売なら直売所の方が手取りがいい場合がよくある。しかし、長期的に継続していきたい、生産規模を拡大していきたいと思うとき、必ず卸売市場は力になる。

農業のために市場流通のために

 私は、金沢農業大学や石川耕稼塾といった農家養成機関の研修は毎回全力で取り組む。市場流通の重要性、強み、価値を理解してもらいたいからだ。特に石川県は担い手がどんどん減少している。地場農産物の衰退を手をこまねいてみているだけでは未来は危うい。農業のため、市場流通のため、担い手育成をいい加減には済ませられない。