書評:コンテナ物語

グローバル経済を推進したもの

 私が子供の頃は、輸入品=高額のイメージだったが、今や廉価品、安物がしっくりくる。なぜか。メイドインチャイナは人件費が安いから?いや、それはもう過去の話だ。私の仕事である青果物流通にいたっては、中国産だろうが米国産だろうが、国産よりも価格が安い。その傾向は何十年も昔から続いている。人件費や生産コストより、物流費の激安化がグローバル経済を促したのだ。それはコンテナという〝単なる箱〟の爆発的普及がもたらしたものだ。「コンテナ物語」はその歴史を教えてくれる。

シンプルな仕組みが導く超大規模な経済革命

 物流費の激安化の理屈は非常にシンプルだ。海運業においてコンテナが規格統一され、巨大な港、巨大な船、巨大なクレーンを駆使して超大規模な流通を実現する。仮に商品を世界の端から端まで運んだとしても、1個あたりの運送コストは、トラックがごく短距離を運ぶ運賃よりも安くなる。それも何パーセント下がる、というレベルではなく、何十分の一にまで劇的に。国内流通よりも外国からの船賃の方がずっと安くなるのだ。本書ではその点を詳細な歴史的経緯とデータを披露しながら解き明かす。

伝説の男マルコム・マクリーン

 本書はマルコム・マクリーンという伝説的人物にスポットを当てた大河ドラマとして読んでも非常に面白い。1930年代、彼は20歳そこそこでトラックを一台所有し、運送会社を立ち上げる。やがてコンテナ輸送のアイディアを思いつき海運業「マクリーン・インダストリーズ」を設立する。その後ライバルの業者を次々と買収し、「コンテナ海運の父」と呼ばれるまで成長を果たす。しかし現実は非情だ。この業界はグローバル規模で浮沈が激しく、一世を風靡したマクリーンの会社「シーランド社」は結局たばこ会社に身売りすることになり、「マクリーン・インダストリーズ」も1986年に破産申請している。

流通業者必読の書

 かくもドラスティックな物流革命はもうないかもしれないが、現代はなお、コンテナ流通、パレット形態の進化は止まっていない。折り畳み式、通い式、レンタル、デポジット制など次々新しい概念が登場している。本書は今後ますます複雑に発展していくだろう物流システムの世界に身を置く者にとって必読の書である。