映画レビュー:「リスペクト」

ソウルの女王の半生

 〝ソウルの女王〟アレサ・フランクリンの半生を描いた伝記映画である。洋楽に詳しい先輩(かつ同級生)の竹松俊一さんに勧められ鑑賞した。私にとってアレサ・フランクリンは、名前を聞いたことがある程度。映画を観て、いやはやこんなすごい(歌の凄さも人生そのものも)人がいたとは全く知らなかったと驚いた。その凄さを感じさせるのは、ひとえにアレサを演じたジェニファー・ハドソンの演技力&歌唱力ゆえである。

ジェニファー・ハドソンの素晴らしさ

 ビッグ・アーティストの自伝モノはかなり昔からあるジャンルで、近年ではフレディ・マーキュリーを描いた「ボヘミアン・ラプソディ」が大ヒットした。今回の「リスペクト」は、代表曲をタイトルに冠したところといい、「ボヘミアン…」の二番煎じと言えなくもない。だがそんなことはどうでもいい。アーティストの伝記映画は、映画内で奏でられる楽曲のクオリティーがすべてである。そのパフォーマンスが圧巻ならば、私にとってはそれで十分だ。歌手としてもグラミー賞を受賞したジェニファー・ハドソンの歌声は素晴らしかった。アレサ・フランクリンをよく知る人は〝本物の方が断然上〟と評すが、幾分ひいき目もあろうし、特に晩年は年齢を重ねた故の渋いノイズが歌声に深みを与えるもので、そのレベルをジェニファー・ハドソンに求めるのは酷というものだ。

歴史、差別、黒人が育んだ聖域

 ドラマもしっかりしていた。黒人の人種差別、宗教観、屈折した人生がしっかりと描かれていた。幼いころから教会で育んだゴスペルの世界を覗き見るにつけ、黒人のソウルミュージックの奥深さに完全に脱帽した。この域にはたどり着けない。付け焼刃では絶対にこの域には到達できない。

映画ならではの映画

 映画のクライマックスは、ロサンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会でのアレサのライブ映像収録シーンで終わる。奇しくも今年、その記録映画「アメイジング・グレイス
アレサ・フランクリン」が公開された。妻はこちらを先に観ていたので、ひときわ「リスぺクト」の内容が腑に落ちたようだ。音楽を前面に打ち出す映画は、映画館で見るべきである。しかも音響設備のなるべく良い館で。本作は、ソウルを知らない私のようなド素人が観ても、十分に堪能できる映画であった。