ルビーロマンの歴史は揉め事の歴史
石川県が誇るブランド農産物の赤色ぶどう「ルビーロマン」が世に出て15年が経過した。昨日、その15周年記念式典が開催され、記念誌も発刊された。その記念誌がとても面白い。紆余曲折の誕生秘話が生産者目線、行政目線、流通業者目線など多方面からてんこ盛りだ。山あり谷あり、よくぞ空中分解せずに今日まで歩んでこれたものだ。ルビーロマンの歴史は、頑固者たちの揉めごとの歴史でもある。
品種に勝る技術改良なし
黒い巨峰、緑のマスカット…大粒ぶどうで新しいブランド品を確立するためには、どうしても「赤」が欲しかった。しかし赤色系の大粒ぶどうは栽培がとてもむずかしい。黒や緑よりも色目をうまく回すのが困難だ。技術指導者として品種改良を牽引した石川県農林部の野畠氏の持論は「品種に勝る技術改良はない」だ。リンゴはふじ、ナシは幸水がりんごやナシそのものの人気凋落を救った。新しいスター品種を作り上げれば、石川の農業は活性化するとの確固たる信念が野畠氏にはあった。ルビーロマンという名前が付く前は、「31号」という名で育成され、その選抜品が次に「ブドウ石川1号」となった。なんだかウルトラQの「M8号」に似ている。試作段階の実験ナンバーだ。
プライド高きぶどう生産者
私は会社に入社して果実部に配属された。その時上司だった河村誠治さん(故人)が教えてくれた。「果実の生産者は野菜よりもプライドが高い。その中でもブドウ農家はとびきりだ」。きっと河村さんの頭の中にはルビーロマンのドン的存在である大田昇会長らの顔を浮かんでいたのではあるまいか。この記念誌には、生産者達のプライドのぶつかり合いのエピソードが披露される。ブランド化に際しての規格を決める会議は毎度紛糾に次ぐ紛糾だ。中でも無核にするか有核にするかで大揉めに揉めた下りは面白い。食味は有核(種あり)の方がうまい。だが20gを超える大粒を作るとなれば、有核では難しい。消費の嗜好も圧倒的に無核が好まれる。結局、デビュー年の初競りは8割が有核となった。うまいものを作る、という生産者の矜持だ。だが、年月とともに無核が主流となり、今では有核の商品はほとんど見られなくなった。生産者達は振り返る。我々は〝バラバラに進んでまとまっての繰り返し〟だったと。ルビーロマンに課す厳しい基準に妥協はしない。自分たちで基準を下げたら、今までの苦労はどうなる。文句を言う前に、自分の腕を磨けとなる。なんともものすごいプライドの世界だ。
10万円の衝撃
生産者であれ、行政関係者であれ、市場登場初年度の初せりで一房10万円の値がついたことが衝撃的であったと口を揃えている。背中に電撃が走ったのだ。この瞬間、ルビーロマンが鮮烈にデビューしたと言ってよい。ちなみに10万円の房も有核だった。この値段で皆の目の色が変わった。このブドウ、爆弾級の価値があるぞと思い知った。世を席巻するものは爆発的な魅力がある。年々ルビーロマンは歴代最高値を更新し、昨年は台湾事業家の謝氏が140万円で買い受けた。「一所懸命にぶどうと向き合う生産者の意欲に払った」と謝社長は言った。せりを仕切ったのは我が社だ。うちの会長と社長は次のようにコメントした。「これからは、価値を認めてくれたお客様の期待を超える進化を遂げていかなければならない」。
石川ブランドの魁
ルビーロマンは、石川県でブランド化に成功した初めての品種だ。これを手本に、のとてまり、加賀しずくといったオリジナルブランドが産声を上げた。石川県は農業零細県である。だが、どこよりも質のいい、オンリーワンの農産物ブランドを生み出してきた。15年記念誌はルビーロマンに関わってきた頑固者達の雄叫びが聞こえてくる面白い本であった。