映画レビュー:「ウエスト・サイド・ストーリー」

勉強すればもっと楽しい

 文芸は勉強したほうがより楽しめる。古典は歴史を、文学は背景を、音楽は系統を、絵画は画家の生涯を。映画もしかり。予備知識なしでも面白いが、知ると何倍も楽しめる作品は少なくない。

面白いがなぜリメイク?

 「ウエスト・サイド・ストーリー」は 演劇好きや映画ファンなら誰もが知る超名作だ。1957年の舞台上演を皮切りに1961年に映画化された。その60年ぶりのリメイクである。楽曲は登場順に多少の変更があるものの、バーンスタインによるお馴染みの名曲の数々であり、設定や物語もほぼ過去作に忠実だ。本作では、ジャスティン・ペック振付によるダンスがキレッキレで素晴らしく、歌はキャストが実際に歌っていてとても上手であり、映像は街並みもライティングも極めて美しかった。ごくフラッと映画館に行ってダラダラッと観ても十分に堪能できる映画であった…が帰り道にふと〝スピルバーグはなぜリメイクしたのかな?〟と疑問が湧いた。古典的名作を今になってわざわざ塗り替える必要はどこにあったのだろうか。

nobuさんの感動的な解説動画

 私は1961年版映画と劇団四季の舞台を1度ずつ観ただけの無知な人間である。家に帰ってから、気になった疑問についてスマホでちょこちょこ調べてみた。そして「nobu / 踊る大香港」というユーチューブチャンネルの解説動画に行き着いた。

感動した。作品でなく〝解説〟に感動したのは生まれて初めてだ。香港在住のnobuさんという方が2022年版(本作)・舞台版・1961年版の比較、リタ・モレノについて、スピルバーグからのメッセージ…などを淡々とした語り口で17分に渡り解説してくれる。そうだったのか!さっきまでボーっと観ていた私は何一つわかっちゃいなかったと思い知る。私はこのブログでは何も書く資格がない。すべては動画を観てくださいというのみだ。

人に面白さを分かち与える喜び

 こういうユーチューブ番組を観ると発信者に頭が下がる。なんと有益なものを世に出してくださったことかと。作品の面白さをたくさんの人に知ってもらうことに喜びを感じる人でなければこんな素晴らしい動画は作れない。リメイク版のホントの素晴らしさにまったく気づいていない私の目を開かせてくれた。もう一度本作を観てみたいと強く思わせてくれた。まさに〝知る〟ことによってより映画は何倍も面白くなる。

リタ・モレノとアリアナ・デボーズ

 nobu氏の解説によって、バレンティーナ(リタ・モレノ)とアニータ(アリアナ・デボーズ)の存在感が際立っていた理由も腑に落ちた。バレンティーナのソロが本作楽曲中もっとも心に響き、二人の主人公よりむしろアニータに感情移入してしまった私の感性もトンチンカンではなかった。それにしてもアリアナ・デボーズの力量はすごかった。特に踊りは圧巻だ。体がはじけ飛ぶ。目くばせ一つで魅了する…人の表現力とはかくも高みに行けるものか。3月28日発表のアカデミー賞助演女優賞はぜひ彼女に取ってもらいたい。取れば1962年のリタ・モレノから60年の時を経て、2代のアニータが受賞することになる。なんともドラマチックではないか。