遺言状を書くことはいいことだ
銀行さんの助けを借りて、父が今、遺言状作りに精を出している。
銀行も本来の業務 ーー預かったお金を貸し出して利息を得ることーー では今の時代はやっていけないらしく、市民の生活にまつわる様々なサービス事業を展開している。
「遺言信託」もその一つで、遺言状の作成から執行まで面倒な手続きのほとんど全て請け負ってくれる。
ちゃんと効力のある遺言状に仕立てるには、それなりにきちんと体裁を整える必要があり、老人が独力でやるには壁が高い。
かといって子供がやってやるにも相続の直接の対象者だけに意外に意思疎通がうまくいかない。
そうこうするうちに親が認知症になり、症状が進行して自分の財産のことがわからなくなるともうなす術がない。
そんな家庭はいったいどうやって相続の手続きをしてるんだろうか。
不思議でならない。
さて、銀行さんの「遺言信託」にはそれなりに大きな費用がかかる。
当初「如何ですか?」と話を持ちかけられたとき、父はそんなお金がかかることには首を縦に振らないだろうと私は思っていた。
しかし、ダメ元と説明を受けてもらったら予想外にすんなりと「じゃあやってみるか」ということになった。
「えっ?遺言作るだけで●●万円の費用がかかるんだよ?」と言っても
「いいんじゃないか」ということに。
意外だったがありがたかった。
これまで、父の財産が、何がどれだけあるのか全然知らなかったし、聞いたとしても「財産なんか大してない」と取り合ってくれなかったから。
遺言というのは、費用はそれなりにかかろうとも、第三者が入ってまとめ上げてくれることがミソである。
作ると決めてからは、その内容については割ととんとん拍子に進んだ。
代理人として様々な証明書を取るのに市役所やら法務局やら何度も足を運んでそれなりに大変だったが、必要なことをプロが管理してくれるのは私としても安心だった。
銀行さん曰く、遺言書を作った人は、その後、精神状態がとても安定する傾向にあるらしい。
これでもういつ死んでも安心だ、という思いが心を穏やかにするのではないかと言っていた。わかる。
わたしも相続税の概算をつかむことができた。
その安心料及び実際の手続きで費やされる時間と手間を考えれば、かかる費用も決して高いものではない。
遺言状を作ることはいいことである。
わたし自身も、そう老いないうちにしたためておこう。
妻と子供のために。