市川海老蔵特別公演「勧進帳」
母と妻と私の三人で、市川海老蔵特別公演「勧進帳」に行ってきました。
2月10日(月)17時〜
金沢歌劇座
一等席12,000円
2020年5月に13代目市川團十郎白猿を襲名するため、これが市川海老蔵として最後の「勧進帳」になります。
最後の、という触れ込みに日本人は弱く「じゃあ今しかない」という気になりますが、冷静に考えれば團十郎になってからが本家中の本家、何百回とやられるでしょうから、これからたくさん見る機会はあるわけです。
それはさておき、市川海老蔵は当代にこの人ありの不世出の名役者であり、観れる機会があれば観ておきたい、そして「勧進帳」は私にとって長唄で習った縁ある演目であり、実際に歌舞伎ではどのように織り交ぜられるのか観ておきたい、そして何より母がこういう世界がわりと好きであり、まあちょっとした親孝行になるだろうという思い、この3つの思いがあって、早々にチケットを取ったのでありました。
席は後ろの方でオペラグラスも持ってこなかったので、表情はそんなによくわからなかったですが、海老蔵の見得のオンパレードはさすがに圧感でありました。
・天地人の見得…弁慶、富樫、義経の三人で決める見得
・不動の見得…勧進帳を読み終えての不動明王の姿勢
・山伏問答…弁慶と富樫のスピード感溢れる緊迫した問答
・元禄見得…問答を終えての決め
・石投げの見得…石を投げたように格好になる
・延年の舞…豪快に酒を飲んだ後に披露する
・飛び六方…ラストを飾る花道の引っ込み
歌舞伎はまったく予備知識なしで観ても「なんかすごかったね」とは感じると思いますが、十分に堪能するにはやはりその世界を深く勉強する必要があります。
例えば、終盤の延年の舞は、実は全てを察している富樫が弁慶に酒を振るまいますが、それは「酒を飲んでいる間に逃げなさい」という意味であり、それを悟った弁慶が舞いながら合図して義経らに出立するよう促すという背景があります。
そして大ラスの弁慶の深々とする一礼は、見逃してくれた富樫に対するものであり、そこから一気に飛び六方へ。
長唄が怒涛のように「虎の尾を踏み毒蛇の口をのがれたる心地して、陸奥(むつ)の国へぞ下りける」とかぶせて終演。
圧感です。
もうかなり前、京都の南座で歌舞伎を見た時は、リアルタイムで解説を聞けるイヤホン放送サービスがありました。
あれは、歌舞伎になじみの薄い人にとっては素晴らしいガイドでした。
地方興行にはそれはないのですね。
技術は発達しているのですから、どこででもそういうサービスをすべきです。
そうすればもっとファンの底辺が広がるでしょう。
伝統芸能の重み
当代一の花のある役者のオーラ
大変素晴らしかったです。
母のためと思った企画でしたが、私が一番楽しんでしまったようです。