やさい・くだもの特別講座(2)

市場人向けの講座

 午後の部は、金沢市中央卸売市場の管理庁舎会議室で、30名強の受講者を集め開催された。参加者は青果部の卸売業者、仲卸業者、小売業者、そして開設者(金沢市職員)である。小売業者といっても、卸売市場で売買参加権を持つ業者に限る。金沢市場での勉強会だから、そこは差別化させてもらった。

講師交代形式

 講義は、近藤さんと金高先生が短時間で巧みに交代しながら話す形式で進められた。このやり方は聞き手が飽きないのでいい。リズムよく話が展開され、90分の講座でも長く感じなかった。

マネキンの効果検証

 内容ももちろん良かった。東京のスーパー、量販店での実証実験で、効果的な販促方法を追求していくものだ。マネキンを使った試食販売は、昔からの定番であるが、果たして本当に効果はあるのか?答えはNOだ。確かに、当該商品の売上は伸びる。しかしその日限りのことであり、マネキンにかかる費用を賄うほど利益を上げているわけでもない。大概、マネキン費用を負担しているのは産地なので、スーパー側は費用対効果が見えていない。実は産地にごっつあんしているだけの刹那的活動なのだ。

従業員への教育

 では、マネキンにかかる費用(1回一人2万円程度)はどう使えばいいのか。答えは社員・パートへの教育である。社員・パートがマネキンと同じ働きをできるようになれば、常時、全店舗での試食宣伝ができる。その教育は現代ではZOOMなどのネット環境を使えば、講師代2万円で十分にできる。ヤオコーなどの勝ち組スーパーほど、こうした社員教育にしっかりお金と時間をかけ、教育カリキュラムを充実させているそうだ。

市場こそ情報発信せよ

 SNSを駆使した情報発信の重要性も講義内で強調された。生産者とレストランなど実需産業とをつなげよ。それは当社のような卸売市場がお膳立てすべきだ。それを見応えあるコンテンツに仕上げてSNSで発信せよ。それこそが明日の卸売市場の付加価値となる。以上は、講師から私に向けた宿題であると感じた。

勉強の場をもっと作ろう

 終始濃い内容で、参加者は途中全く眠くならず、最後まで食いつくように受講した。こういう機会は年に数回はあって良い。それこそ、わざわざ金沢に来ずとも、ZOOMを使えば遠隔地にいながら勉強できる世の中である。食育活動も旧来の発想からは一歩も二歩も踏み出さなくてはならない。

やさい・くだもの特別講座(1)

食生活を考えるみんなの集い

 本日、金沢市中央卸売市場の「やさい・くだもの消費促進協議会」の講演会が午前・午後の2回に渡って開催された。午前は学生さんへの講義で、金城大学短期大学部のフードマテリアル授業の一環として、午後は市場人への講義で、青果物消費拡大を図る「食生活を考えるみんなの集い」の特別講座としてである。

コロナ禍ゆえの特別企画

 本来、「やさい・くだもの消費促進協議会」の活動は、加賀野菜を材料にした料理教室を年に10数回開催することを主としてきた。しかしここ2年間は、新型コロナウイルスのため料理教室が一切開催できなかった。それでも食育活動はなにかの形で行いたい。そこで代替として企画されたのがこの特別講座である。東京から専門の学識者を招いて、青果物の基礎知識の習得、および消費振興の先端事例を学ぶ会としたものである。

ベジフルセブンの両先生

 講師としてお招きしたのは、「青果物健康推進協会」の事務局長・近藤卓志さんと同顧問・金高(きんたか)有里さん。この協会はいわゆる〝ベジフルセブン〟を提唱した組織で、野菜や果物を人々が毎日しっかり摂取して健康的な生活を送ることを推奨している。近藤さんは東京から、金高先生は北海道からのお越しで、せっかく遠方から来ていただくのだからと、午前は学生に、午後は市場人に、と1日2回の講座を受け持ってもらったのだ。その内容は非常に素晴らしいものだったので、今日と明日の2回に渡って記録していくことにする。

金城短大で講義

 金城大学短期大学部では、金高先生が、将来フードビジネス業界を志望する女学生に向け、青果物の基礎知識を教える授業が展開した。野菜とは何か、くだものとは何かに始まり、正しい食のあり方を「食を育むまんまカルタ」(金高先生が企画・作成・販売!)を使って伝授された。この授業で力説されたのは、〝植物は生きている〟という事実である。生きているから呼吸を続けているし、呼吸しているから時間とともにに品質が劣化する。鮮度・食べごろ・旬は自然のサイクルと命が関連している。人々が豊かで正しい食の知識を身につける際にはこうした青果物の基本の習得が欠かせない。

反応は上々

 最近の学生さんは基本的に大人しい。私は教室の最後部から授業を見ていて、最初はあまり反応がなく心配だったが、かるたを始めたころから空気が柔らかくなり、90分の授業中、生徒らは熱心にノートを取っていた。授業後は「感想」をびっしりと書いて提出してくれた。授業は非常に好評だったようだ。金高先生としては、90分授業1回ではほんの触りの部分しか講義できない。先生の本拠地・札幌保健医療大学では、金高先生の授業は〝神授業〟、ゼミは一番人気であるという。本当は金沢の学生さんにも何コマもの授業を受けてもらいたいと思いながら、午前の授業時間が終りを迎え、金城大学短期大学部をあとにした。

祝!新庄監督誕生

破天荒な監督誕生

 新庄剛志が日本ハムの監督になり、話題を振りまいている。自分のことを「監督」ではなく「ビッグ・ボス」と呼ばせる。練習のたびにファッションショーのような派手は出で立ちで登場する。グランドにワゴン車を入れてその上に乗り、バットをかざしてその高さより低く強い球を投げさせる。スター選手が育つまではエースナンバー「1」を自分の背番号にする。ウケ狙いのようだが、あながちそれだけとは思えない。ちゃんとチーム作りや人材育成のポリシーに根ざしたショーマンシップ。その精神が、開幕後の選手のパフォーマンスに現れてくるところが見たい。

エンターテインメント性あふれるプロ魂

 監督の役割は、試合に勝って優勝できる強いチームを作るあげることだ。だがもっと根源的に、プロスポーツとはファンを楽しませることが目的だ。最強無敗だがつまらない試合ばかりのチームと、全敗最下位だがエキサイティングな面白い試合をするチームでは、後者のほうが存在意義がある。エンターテインメントに必要なのは意外性、驚き、そして感動だ。新庄監督の何をしでかすか分からない魅力はワクワク感でいっぱいだ。あっと驚く新庄抜擢はさすが日本ハムだ。ペナントレース開幕後、大いに感動させてもらいたい。来年はパ・リーグが本当に楽しみである。

青果物の週間情報 【2021-W47】

■週の概況 第47週 11/15(月)~ 11/20(土)

【全体】

 石川県内は、気温低下と冷たい長雨が続き、無加温のハウス物は生育が鈍り、重油が高いために加温も消極的であり、地場農産物の出方を鈍らせている。先日はあられも降って、ダイコンなどに被害をもたらした。一方で県外、特に関東方面は天候よく、生育は順調だ。総体的に野菜は、出荷量において前週から大きな変化はない見通しで、価格も概ね保合である。ただし玉葱のひっ迫感は次第に強まっており、品薄高値が一層ひどくなりそう。果実ではみかんはまだ順調ながら、柿、りんごは例年より少なめ単価高が続いている。
 消費面では、県内の温泉街・料亭・宿泊施設は「県民割制度」や「五感にごちそう金沢」など行政の補助政策もあって活況を呈している。このため業務筋仕向けの食材の動きは比較的好調だ。一方で冬野菜の家庭菜園も収穫どきであり、ねぎ、ダイコン、キャベツなどは郡部に行くほど店頭販売が苦戦している。

【野菜】

 葉茎洋菜類では、ブロッコリー、レタスは主力産地からの安定した入荷が見込まれ価格は保合での推移する。白菜は、降雨の影響から不安定な入荷で価格は上がる見込みだ。ねぎは埼玉産、県内産から安定した入荷で、前年を下回る価格が予想される。菌茸類では、「のと115」が前年より早いスタートだが、下旬頃までは少ない数量のまま続くだろう。
 果菜類では、胡瓜は高知産をメインに愛知産へと移行し、安定した入荷が見込まれる。茄子やトマトは動きの鈍さから価格は一段下がるが、気温の低下から数量は不安定となり注意が必要だ。ピーマンは、量が一旦落ち着くが、さらに翌週より増加が見込まれる。
 根菜類では、県内産のダイコンは10日の霰で露地作の圃場に被害が発生している模様。かぶは県内産の共販がスタートし、数量増加が見込まれる。人参は、県内産に加えて、北海道産等の入荷となり、平年よりて安値での推移が予想される。ごぼうは青森産の秋堀り物が潤沢だ。県内産の甘藷、蓮根は微増傾向となる。じゃがいもでは、メークインは数量少なく価格は上昇傾向だ。玉葱は増量の目途が立たず、高値推移が一層強まる。

【果実】

国内果実では、みかんは前進傾向だが、気温の落ち込みから着色遅れとなり、数量のばらつきが懸念される。柿は県内産の高松紋平柿は潤沢ながらピークも過ぎ減少する見込み。奈良産、岐阜産の柿は、前年を下回る不作傾向となる。苺は愛知産に加えて、長崎産よりゆめのかの入荷。平年と比較して前倒し気味のペースである。季節商材では、宮崎産の金柑がスタートする。
国外果実では、バナナは入船の遅れが懸念される。マンゴーはペルー産のケント種がスタートし、前年並みの数量が予想される。アメリカ産のザクロは、降雨の影響により今シーズンは例年と比較して少ない模様。パイナップル、シトラス、キウイ等は安定した入荷が見込まれる。

自己管理能力と会社経営力

リンクする自己と経営

 自己管理能力と会社経営力とは大きくリンクするものだと思う。生活が破綻している人間に良い経営はできない。何もかもを仕事に注ぎ込んで会社を発展させるスタイルの事業家もいるにはいるが、もしエネルギーの何割かを自分自身に振り向けたら、経営はもっと発展したのではないか。

しごくシンプルな理屈

 自己管理ができるから、他人の管理にも言及できる。それが組織マネジメントにもつながる。しごくシンプルな理屈だ。自己管理の端的な例は健康管理だ。健康管理でよく使われるのはスポーツの趣味だ。そこでも目標をもって個人の競技力を向上させている人間は、経営能力も高いということになる。目標を掲げ、実現に向けて計画し、行動に移す。これは個人でもチームでも企業組織でも同じプロセスになる。繰り返すが、しごくシンプルな理屈だ。

自己ブランディングと企業ブランディング

 スポーツだけでなく、映画・音楽・読書・勉強…様々な習い事でも同じである。自分をどうやって〝ありたい自分〟に近づけていくか。イメージングと分析・計画・行動の繰り返しで自身をブランディングしていく。経営も結果的に自社をどう価値付けていくかの勝負であり、一言でいうと「企業のブランディング」なのである。

一本の円環

 よって、自己管理、家族管理、コミュニティ管理、会社内チーム管理、経営管理はすべて一本のサークル(環)でつながっているものである。偏らず一つ一つを大事にしていくことで全体上昇につながるのではないかと思う。

中本農園に優良出荷者表彰

金沢市場における優良出荷者表彰

 本日、石川県白山市にある中本農園を訪問し、「優良出荷者表彰」の表彰状ならびに記念品をお渡しした。優良出荷者表彰とは、金沢市中央卸売市場に対し精力的に青果物を出荷してくださった団体や個人に対し贈呈する賞である。毎年3~5軒の農業出荷者を選定する。遠方地には郵送でご勘弁いただくが、県内の産地には出向いてお渡しする。賞を出すのは開設者=金沢市(さらに言えば金沢市長)であるが、推薦するのは我が社である。

中本農園

(左)中本社長と(右)我が社の担当・北野くん

 中本農園さんは、鶴来地区にあって広大な園地で野菜作りをされる有限会社であり、同地におけるレタス作りでは草分け的な存在だ。しかしかなり以前のことながら、同地でタバコ蛾による被害がまん延し、レタス作りが難航。中本農園は栽培の多角化を余儀なくされた。今では小松菜を筆頭にほうれん草、トウモロコシ、キャベツ、白菜、レタスなどを市場や生協などに大量に出荷し、所有ハウスの数では県下でも指折りの大生産者となっている。正社員は15名ほど、バートさんは35名ほど、さらに冬場の仕事作りとして何と和歌山県にも圃場の構え、周年体制を敷いている。

石川県産農産物の振興を目指して

 優良出荷者表彰を授与するのは遅すぎたほどではあるが、中本農園は先代の中本正弘氏から息子の中本弘之氏に代替わりし、ますますの発展傾向にある。今回はささやかながら感謝の意を表したつもりである。これをきっかけに当社としても今後中本農園さんとますます結びつきを深め、石川県産農産物の増産振興に努めたい。

今年初めて蟹を食す

金沢と蟹

 当地では毎年11月6日以降、蟹漁が解禁になると青果物の需要が落ちる。野菜や果物が売れなくなる。だから私にとって蟹は敵である。だが蟹はうまい。くやしいと思いつつ私も喰う。だが蟹は面倒だ。むしるのに手間がかかる。むしっているうちにイヤになってきて、そこそこ食べてもういいやとなってしまう。

芸術的な香箱の盛り付け

 料亭でかに会席を食べると、それはそれはキレイに仕立てて出てくる。香箱の殻をお皿にして盛り付けるのはオシャレだ。内子・外子・かに味噌・ほぐした身、足の身がギュッと詰まって殻の中に鎮座している。これも金沢の食文化である。こんなに綺麗で、いろんな味が楽しめるのが香箱の真骨頂だ。雄のズワイをもてはやす者の気が知れない。魚屋やスーパーでも、剥いた状態でパックして販売するところが少なくない。もちろん割高になるが、手間をかけずに食べたい者にとっては有り難い形態だ。

今年お初

 本日、私的には今年初の蟹にありついた。長町の魚屋「西村鮮魚店」で購入。割高だが剥いた香箱にしたのは、妻への思いやり、のつもりである。ホントに思いやりがあるのなら、自分でゆでて、自分でさばいて、自分で盛り付けてこそ本当かもしれない。が、それは次回、仕事が休みの時に挑戦することにする。

結論

 今年初めての香箱は、西村鮮魚店のおかげで、また直源醤油の「かに酢」がこれまた絶品で、非常にうまかった。香箱にも大小あれど、一匹分は夕食のおかずとしてはとても贅沢かつ絶妙な量である。結論。剥く作業がない蟹はうまい。自分で剥いてこそうまい?
いや、楽してこそ美味い。

映画レビュー:「リスペクト」

ソウルの女王の半生

 〝ソウルの女王〟アレサ・フランクリンの半生を描いた伝記映画である。洋楽に詳しい先輩(かつ同級生)の竹松俊一さんに勧められ鑑賞した。私にとってアレサ・フランクリンは、名前を聞いたことがある程度。映画を観て、いやはやこんなすごい(歌の凄さも人生そのものも)人がいたとは全く知らなかったと驚いた。その凄さを感じさせるのは、ひとえにアレサを演じたジェニファー・ハドソンの演技力&歌唱力ゆえである。

ジェニファー・ハドソンの素晴らしさ

 ビッグ・アーティストの自伝モノはかなり昔からあるジャンルで、近年ではフレディ・マーキュリーを描いた「ボヘミアン・ラプソディ」が大ヒットした。今回の「リスペクト」は、代表曲をタイトルに冠したところといい、「ボヘミアン…」の二番煎じと言えなくもない。だがそんなことはどうでもいい。アーティストの伝記映画は、映画内で奏でられる楽曲のクオリティーがすべてである。そのパフォーマンスが圧巻ならば、私にとってはそれで十分だ。歌手としてもグラミー賞を受賞したジェニファー・ハドソンの歌声は素晴らしかった。アレサ・フランクリンをよく知る人は〝本物の方が断然上〟と評すが、幾分ひいき目もあろうし、特に晩年は年齢を重ねた故の渋いノイズが歌声に深みを与えるもので、そのレベルをジェニファー・ハドソンに求めるのは酷というものだ。

歴史、差別、黒人が育んだ聖域

 ドラマもしっかりしていた。黒人の人種差別、宗教観、屈折した人生がしっかりと描かれていた。幼いころから教会で育んだゴスペルの世界を覗き見るにつけ、黒人のソウルミュージックの奥深さに完全に脱帽した。この域にはたどり着けない。付け焼刃では絶対にこの域には到達できない。

映画ならではの映画

 映画のクライマックスは、ロサンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会でのアレサのライブ映像収録シーンで終わる。奇しくも今年、その記録映画「アメイジング・グレイス
アレサ・フランクリン」が公開された。妻はこちらを先に観ていたので、ひときわ「リスぺクト」の内容が腑に落ちたようだ。音楽を前面に打ち出す映画は、映画館で見るべきである。しかも音響設備のなるべく良い館で。本作は、ソウルを知らない私のようなド素人が観ても、十分に堪能できる映画であった。

300円テロ騒動

謎の出荷者

 バカバカしい騒動の顛末だ。昨日夕方、柿数十個が入った箱一個が当市場に委託で持ち込まれた。出荷者は初めてらしく、伝票には氏名が手書きで記載されていたが、住所も電話番号も書かれてない。わかるのは名前「田中一郎(仮名)」のみ。誰も知らない。箱にはメモが入っていて「売れた代金は寄付してください」とあった。

300円の柿一箱

 本来、身元のはっきりしない人の出荷は受け付けてはならない。荷受けした当社社員は問題だった。しかも商品はそのまま翌朝のせりで販売されてしまった。品質的にはあまり良くない品で、せり価格は300円(1箱で)という安値だった。

疑念が首をもたげる

 ここまで進んでようやく私に相談が来た。メモに寄付とありますが、どう処理しますか、と。代金300円、手数料さっぴくと229円だ。わずかな額だが荷主さんのお金であり、うちが勝手にチャリンと寄付するのは変じゃないか。…あれこれ考えているうちに全く違う方向に心配になってきた。わざわざ中央市場に柿を1ケースだけ持ち込んできたことが不可解だ。市場流通に未知な人にとって、委託出荷は精神的ハードルが結構高い。しかも金はいらない、寄付してくれ。つまり集金には来ませんよということで、我々がこの〝田中一郎〟さんに会うことはもうない。

ミステリーの始まり

 極端な話、〝田中一郎〟さんは実在しないかもしれない。もし…もしも…、〝田中一郎〟さんが凶悪な愉快犯で、柿には実は注射針で毒が仕込まれており、食べた人が死に至るとしたら…。荷を受けたうちの社員が覚えていない限り、事件は迷宮入りする。わが社は得体のしれない商品を荷受けし販売した責任を問われ、下手すれば企業として存続できなくなる。そう考えがめぐり、商品を回収すべきでないかと所在を確認した。しかし柿は仲卸が買い受けた後、他の商品と合わさって市場外に出てしまっていた。万事休す。TV、新聞の取材のフラッシュがたかれる中、頭を垂れて謝罪する自分の姿が目に映る。たかが300円のせりで、我が人生もここまでとなるか。

事の真相

 しかし幸いにしてテロリストによる無差別殺人は現実化しなかった。荷を受けたうちの社員は夜勤で日中は寝ているが、電話で叩き起こし、もう一度よく思い出してもらう。「そう言えば、ちょくちょく市場に買い出しに来る、(その方の容姿の説明)…のおじさんが持ってきたな。自分が作った柿じゃなくて、近隣の農家さんに頼まれてきたんだと言ってた」。その容姿説明を聞いて、何人か当たりがついた。電話して確認する。ヒットした。「ああ、それ、わしや。在所の田中さんに頼まれた。300円つけばいいとこだねと言ってたんでドンピシャやね。わしが今度集金して、在所の公民館の赤い羽根募金に入れることになってる」。

顛末

 なんだ、メモは市場に対してのメッセージでなく、買い出しのおじさんにことづけたものじゃないか。勝手にコンビニの募金箱にチャリンしないで良かった…、とのんきなことを言えるまでにホッとした。買い出しのおじさんには、今後はちゃんと身元がはっきりするような出荷の仕方をするよう、お願いした。

旧式のやり方と現代社会とのギャップ

 わずか300円の商品を巡って、私と総務部長と販売担当が右往左往した。時間にして1時間30分ほど費やした。疲れた。荷受け・販売スタイルが旧式のままなのに、社会の不穏さが増している。社会的責任も増している。そのギャップが広がっていることが問題だ。かといって、荷受けとせりに必要以上に厳密なチェック体制(機械センサーやら身分認証やら)を求めるのも非現実的だ。バカバカしい話だが、意外にあれこれと感がさせられる材料ではあった。

カニ解禁!〝輝〟500万円‼️

蟹が始まると青果が黙る

 毎年11月6日は当地石川県でのズワイガニ、香箱ガニの解禁日である。この日以降、石川の食はカニ一色になる。先週までは地物のマツタケなど、青果もそれなりに賑わっていたが、カニ解禁になると野菜・果物は意気消沈するのが毎年の常だ。私の業界とすれば寂しい話だが、消費者の目がそちらに行く以上仕方がない。動7物背タンパク質にはかなわないのである。

かがやきが「かにわん」で500万!

 そして今季、話題性においてもビックリなことがあった。昨年より各漁船厳選の一匹の最高額を決める「蟹-1(かにわん)グランプリ」を開催した。そして今年から石川県の漁協は〝輝(かがやき)〟というブランドを制定した。あわせ技で高額落札が期待された今季、No.1の品についた値段はなんと500万円!であった。買い受けたのは百楽荘。2年前、ルビーロマンを120万円で買い受けてくれた能登の温泉旅館である。

石川県の蟹ブランド

 この価格は、青果としてはお手上げレベルである。くやしい気持ちも大きいが、石川の食で話題ができるのは良いことだ。石川県の蟹は昔から人気はあれど、福井の「越前ガニ」や山陰の「松葉ガニ」から見ると同じズワイガニながらまだまだ知名度が低い。県は「加能ガニ(かのうがに…加賀と能登を一字ずつ取った言葉)」でPRを図ったが、なかなかうまくいかなかった経緯がある。この〝輝(かがやき)〟〝蟹-1(かにわん)グランプリ〟〝500万円〟などで全国レベルに格上げされることを狙っている。

金沢市中央卸売市場も介入せよ!

 問題もある。これを仕掛けたのは石川県漁業協同組合であり、せりが行われたのは金沢港にある「かなざわ総合市場」である。金沢市中央卸売市場ではないのだ。我が社のお隣さんである中央市場の水産物部が噛んでいないのは残念である。青果も水産も我が金沢市中央卸売市場が商流・物流ともに中枢に君臨したい。ブランド作りと振興にいかに中央市場が食い込むかは、今後の大きな課題である。

輝(かがやき)ブランド(備忘録)

 石川県漁協が認定する石川県産ズワイガニの雄「加能ガニ」の最高級ブランドである。重量1.5kg以上、甲羅幅センチ以上、すべての脚がそろっている、甲羅が硬く身入りが良いなどが基準で、今季は100匹程度(昨年の水揚げの0.04%)の認定を見込む。