穴水に雪が降る

ここは石川県能登の穴水町である。
ファーム菜四季・穴水農場のアスパラガスハウスがある。
今までJAおおぞらさんの配送センターの2階を事務所に借りていたが、ちょっと遠くて便が悪いため、圃場の中にプレハブ小屋を建てることにしたのだ。
施工はJA建設エナジーにお願いした。

その完成引渡し会が今日あった。
本当はもっと前に出来上がっていて、12月15日を引渡しの日に設定していたのだが、その日にかなり雪が降ったので中止にした。

その際の大雪の名残が写真である。
今日までに何度が雨が降ったので雪の量はガクンと減ったそうだが、それでもこれだけ残っている。
15日はハウスのかなり上に迫るまで積もっていたらしい。
ハウスが潰れないよう数日間は雪かきに追われた。
能登と加賀ではかくも環境が違う。

18日に行われた原木椎茸「のとてまり」の出荷は、初日以来パタンと止まってしまった。
椎茸を栽培している中心地は能登の山であり、ここよりもさらにさらに雪が深い。
今は雪が深すぎて、そこに入っていくことすらできないのだ。

この時期の大雪は近年珍しい。
今は一旦落ち着いた感があるが、農場長の河端さんは、今季はかなり降る年になるのではと読んでいる。
降る、降らないで、できる作業はまるで違うので、その年の気候がどうなのかは農業にとっては一番気になるところだ。

ところで、冷え込みがきつい季節、金沢と能登を車で往復するのは怖い。
路面が凍結するのだ。
スリップ事故の恐怖は、経験した者でなければわからない。
もう25年ほど前になるか、人を後部座席に3人乗せ、雨の高速をかなりのスピードで飛ばし、事故を起こしたことがある。
スリップして制御を失い横滑りし、トラックの横っ腹にぶち当てたのだ。
乗っていた車の左前方部は大破。
相手がトラックだったからいいクッションになったのであり、
縁石にぶち当たっていたら命がなかったかもしれない。
あの時の数秒間は今でも脳裏に蘇る。

先日はあまりに野菜が安いので、雪でもドカンと降ればよい、と書いた。
しかし、実際降られると大いに困るのだ。
本当に私のその場の感情は軽薄である。

ある程度穏やかな気候で落ち着き、農業がやりやすい環境になることを願うばかりである。

青果物の週間情報 【2020-W52】

■週の概況 第52週 12/21(月)~ 12/26(土)

【全体】
 年末で需要は高まり、相場は上昇する。ただ例年ほどには上げ切らないのでは?という声が大勢だ。理由その一は、基本的にものが潤沢に出ていること。干ばつで小玉傾向の品物が多くなる傾向はあるが、ひっ迫するほどの減少はないとの見方だ。理由その二は、コロナ禍。Go To トラベル停止で観光客が減少、移動自粛で帰省者が激減の世相であり、石川県内は例年より人口が少ない年末となる。忘年会や親族の集いなど大人数での会食は影をひそめ、消費に勢いがつかない。巣ごもり需要で例年よりおせち料理の予約は活況だが、オードブルの注文は逆に落ちているそうだ。5人~10人向けの大量食材よりも、2~4人の小家族向け規格の品揃えが今年はよく動く傾向となるだろう。
 以上が一週間の予測だが、今後大雪の恐れがあるなど強い寒波が到来し、暮れ・正月の情勢は正直まだわからない。29日の止め市を待たず入荷が終わる品目もあるが、年末最終の概況を来週もお届けする。

【野菜】
 白菜・キャベツは年末に向かってじんわり上げ。地物のネギはあられに当たり品質不良が多少出ている。ほうれん草は例年より安いレンジでこの週は上げ。小松菜は依然低迷が続きそうだ。業務需要不振のため、金時草は安値である。レタスはクリスマス需要もあって上げ。ブロッコリーは石川県産終盤により上げである。きのこ類は需要期に入って全体に強く、初せり26万円で話題ののとてまり(原木椎茸のと115)も入荷がある。
 果菜類も全体に上げ相場ながら、それほど大きい値動きではない予想だ。この時期としてはミニトマトなど破格の安値水準で、これはレストラン・ホテルなど業務需要が落ち込んでいるためと思われる。一方、みつば、大葉、春菊といった年末年始に引き合いが集中する商材は当然ながら上げを見込むが、”それなり”のレベルであり、ひっ迫する事態には到らないとの予想だ。
 根菜類では、ダイコンが長期の大低迷から少し脱出の状況だが、まだレベルは低い。蓮根・サツマイモ・里芋は中玉以上のサイズは品薄で単価高、小玉クラスは過剰で単価安という両極端な傾向である。馬鈴薯は年末の引き合いが強まり上げる。百合根は業務需要なく動き悪し。くわいはおせち需要で上げるが、今季は小玉傾向となっている。

【果実】
 国内果実は主力のみかんはややだぶつき感が続き、この週も潤沢である。りんごは長野県産がほぼ終了し、青森県産がメインとなる。柿は富有系の冷蔵柿の入荷となる。ころ柿はやや不足感はあるものの連日の入荷である。いちごはクリスマス需要で高値傾向となるものの、例年よりも量は確保されており、順調な入荷を見込む。デコポンは夏場生育期の天候不良により不作で品薄高値傾向となる。
 輸入フルーツではイスラエル産のスイーティーとアメリカ産のメロゴールドが旬でおすすめだ。スイーティーはこれから1月一杯、メロは2月一杯までの入荷予定であり、いずれもグレープフルーツより酸味がなく爽やかで食べやすいと好評だ。バナナ・オレンジ・パイン・葡萄類などは安定して順調な入荷予定である。キウイはグリーンのみの入荷で総量はあるものの大玉は品薄となっている。

金沢のお茶屋文化を守ること

金沢東山のお茶屋「八しげ(はちしげ)」さんから挨拶状が来た。

来年から女将(おかみ)が代替わりするとある。
45年にも渡って店を支えられた森田勝美さんが女将を退任され、「八しげ」で33年芸妓をつとめてきた真砂美さんに引き継がれることになったのだ。

私は習い事のご縁で真砂美さんを知っていて、もうだいぶ前から女将継承の打診があることを聞いていた。
軽い気持ちで「受ければいいじゃないですか」と言ってしまったこともある。
さぞかし能天気な奴と思われただろう。

お茶屋文化は日常世界と文化遺産的世界の境界線にある。
昔は裕福な旦那衆がごく普通に利用する大人の社交場だった。
しかし今ではごく一部のお祝いの席で芸妓さんたちが舞を披露し、宴でお酌に回るのが一般的で、その後二次会にお茶屋に利用する機会はとても少ない。

金沢に新幹線が通じ、観光客がどっと押し寄せるようになって芸妓は引っ張りだことなった。
全くお休みが取れなくなるほど忙しかったと聞く。
金沢市の行政も、江戸時代から伝わる伝統文化としてお茶屋文化を保護・支援した。

しかし、コロナ禍で何ヶ月もお座敷(宴席)がゼロとなった。
ホテルや料亭に呼ばれる機会がゼロ、お茶屋さんに旦那衆が来ることもゼロ、観光客を相手とするイベントもゼロ。
普通の飲食業以上の経営危機に瀕した。

このタイミングで女将を引き受けるのは本当に悩まれただろう。
しかし、金沢に今も継承される三茶屋街(ひがし、にし、主計町)で、ひがしは中心的存在であり、観光の名所。
八しげは中でも老舗的存在であり、なくなってはいけない。

女将を永年務められた森田さんは80歳を超えるお歳だ。
以前、私は真砂美さんに「世の中の会社で80済んだ(過ぎた)社長なんか(ほとんど)おらんよ。いつまでもさせておくのは可哀想や」と言ったそうだ。
無責任なことに、私はその時のことを覚えていない。
もしかして真砂美さんには辛く当たった言葉かもしれない。
だとしたら申し訳ない。反省だ。

ただ、我ながら、本当のことを言っているなとも感じる。
守るべきものは、思いを持った誰かがやらねばならぬ。
グッと踏ん張り。
そして後々にはまた誰か若い人に譲っていく。
それが継承者の使命だ。
そしてそれを周りの者達がいかに支えてあげられるか。

真砂美さんには本当に頑張ってもらいたい。
私は今まで支えることなど一度もしたことがないが、これからはわずかでもできることがあればよいが。
お茶屋さんが華やかに存続できない金沢なんて、文化都市と名乗ることはできないのである。

仲卸三役との懇談会

本日、仲卸組合の役員3名と当社の役員3名とで懇談会を開催した。
今後はさらなる緊密なパートナーシップを持とうということで、ざっくばらんな意見交換を定期的に行っていくことになったのだ。

卸売会社と仲卸は市場の両輪である。
卸売会社にとって仲卸は最大のお客様であるが、特殊な緊張関係にもある。
基本的に、卸と仲卸は対峙することで市場機能が果たされると言われてきた。
卸は生産者の側に立ち、できるだけ高く売ろうとする。
対して仲卸は小売業者の側に立ち、できるだけ安く買おうとする。
その両者が対峙することでその時々の適正な価格で取引が成立しる。
それが相場である。

その理屈は今も変わらない。
しかし、市場間競争が激しくなった現代では、卸と仲卸は対峙するだけでは勝ち抜けなくなってきた。
むしろ手を携えて販売にあたらなければ他所の市場に売り負けしてしまうのだ。

本来は卸は集荷に特化し、仲卸は販売に特化して発展するのが理想だが、実際はそううまくいかない。
卸からすると仲卸が十分に営業をしてくれないからものが動かない、仲卸からすると卸が必要な量を引いてきてくれないから販売が行き詰まる、という文句の言い合いにもよくなる。

私などは、卸と仲卸と経営を一にすればいいのにと常々思ってきたが、50年以上にわたるいきさつやしがらみがあってそう簡単なわけにはいかない。

ざっくばらんで打ち解けた懇談会になるはずが、この日仲卸から卸に対しては、
①1週間後、2週間後の値段提示をしてくれと言ってもできるやつが少ない。
②だから、他の市場よりも、商談が3日ほど遅れる。スピードで負けている。
③産地からの量や価格が事前の情報と全く違うことがままある。(情報が不正確)
など、手厳しい意見がたくさん出た。

耳は痛かったが、一々ごもっともな意見ばかりであったので、改善できるものは早急に手をつけなければならない。

具体的には、低迷している品目については、品目は単品でも良いので、卸と仲卸が寄り集まって産地・小売に対する集荷販売対策を協同して行う試みを来年から始める。
なにぶん、トップ会談であるから、現場が動かなければ何にもならない。
言うだけ番長で終わってしまってはいけないのである。

のとてまり生誕10周年記念の初せり!

左:奥能登原木椎茸活性化協議会の樋下会長 右:堀他の浅市さん

原木椎茸「のと115(いちいちご)」の特秀品「のとてまり」の初せりが行われた。
8玉プレミアムが史上最高値更新の26万円!で競り落とされた。

これ一式で26万円。器は珠洲焼のお皿

買い受けたのは果実に続きまたしても青果専門商「堀他(ほりた)」。
野菜担当の浅市(あさいち)氏がせり落とした。

堀他から埼玉県浦和の鉄板焼き「M’s Rou(エムズロウ)」に納入される。
このお店と堀他は5年前から取引が始まり、M’s Rouの安田シェフが堀他の店頭で「のとてまり」を見て惚れ込み、以来浦和のお店で使ってくれるようになったとのこと。

原木椎茸の素晴らしさを力説する樋下会長

奇しくも、のとてまりは今年ブランド生誕10周年、M’s Rouも開店10周年とのことで、安田シェフより今年の初せりでぜひ買い受けたいとの依頼があったそうだ。

せり風景

浅市氏はインタビューに応え「今までは県内消費がほとんどだったが、10周年を機にこのブランドがもっと県外へ羽ばたけばいいなという思いを込めてせりに臨んだ」とコメントした。

実は今日という日には大きな試練もあった。
丁度この出荷日に合わせたように能登には大雪が降り、奥能登では120棟超のハウスが倒壊。そのうち約10棟は原木椎茸のハウスであった。
その多くは雪の下に埋もれてしまった。
初日に出荷できたのは昨年比でわずか1/5の数量となった。

そもそも今年は夏の暑さで生育が遅れ、生産者は栽培に苦労した。
115は冬菌で冷え込みによって生育が進む性質があり、11月以降の気温低下で回復した。
今回、降雪の被害に出鼻をくじかれた格好だが、新年1月からは潤沢に出回り、シーズン通して昨年より2割の増産を見込む。
出回り期間は今から3月までだ。

以下、基本知識である。

●まず「のと115」についての説明。
奥能登で栽培される原木椎茸で、「115(いちいちご)」は植菌する品種「興菌115号」から取っている。

コナラ等の原木に冬から春にかけて菌を植え付ける。風通しの良い林に約1年かけて管理する。
12月頃から原木から芽が出はじめると、乾燥しないように1個ずつ袋掛けを行う。
芽が出てから3週間ほどで大きく育ち、収穫時期を迎える。

雪深い能登の山あいで作られ、能登の気候風土にマッチしてしたものか、この地特有の丸々とした肉厚の椎茸に成長する。

香りや風味が良く、歯切れの良い食感が魅力である。
12月から3月にかけてがシーズンとなる。

●「のとてまり」についての説明。
のとてまりは「のと115」のうち、珠洲市、輪島市、穴水町、能登町で作られ、直径8㎝以上、肉厚3㎝以上、巻き込み1㎝のものに認定されるブランドで、その形がてまりのようにまん丸になることから「のとてまり」と命名された。
その中でも特に形が優れたものが「プレミアム」となる。

松下幸之助「困っても困らない」と「叱られたことを受け入れる」

昨日はPanasonicの姿勢から松下幸之助イズムにつなげた。
そこで思い出したことがあったので今日も松下幸之助ネタを書く。

1)困っても困らない

困った時に悲観しては萎縮して智恵も出なくなる。
人の心を孫悟空の如意棒と思え。
伸縮自在。心をぐんと大きく伸ばし、「悪い今だからこそ良くなるのだ」と信じる。
今の困難は容易なことではないと認識し、それと同時に、打破することは必ずできるとも信じる。
その心持ちで自分の仕事・自分の活動を検討すれば必ず活路は見出せる。

●私見
大きな困難、大きな試練は必ず我が身に襲いかかってくる、ということは常に覚悟し、想定してしておくこと。
であれば、実際に苦難に見舞われた時、「来た来た」と慌てふためかず迎えることができる。
心情的には余裕を持って。

2)叱られたことを受け入れる

叱られることは大事であると考えよう。
自分の成長の糧となる。
感謝と喜びの気持ちを持って叱られよ。
常に、大いなる目が自分を叱るかもしれない、という怖れを感じつつ日々を生きよ。
さすれば、自ずと謙虚さと慎み深さが生まれてくる。
叱るときは愛を持って叱れ。
「私はこれから君に注意する。もし君に不満があるのなら、もったいなくて注意など言えない。しかし、君がなるほどそうか、と感じるところがあるのなら、今後改めて非常に立派な人間になってくれると思う。君、どうだね?」

●私見
飯山氏のセミナーでは、今の若手には叱る指導法は間違いであるとはっきり示された。
私はそれに納得できず、何度か食い下がったが、「伝わらないのだからいっても仕方がないでしょう」と現実論で諭された。
まさに、伝わるかどうかが重要。
その点で、松下氏の「君は受け入れる思いがあるか?」と問う姿勢が人に注意する際にはとても重要な点となるだろう。

さすがPanasonic

修理されたIH調理器

さすが大手メーカーと感心させられたことがあったので記す。

昨年の11月、家のIHクッキングヒーターを買い替えた。
ヤマダ電機に行き、実物を見て、Panasonic製のものを選んだ。
IH調理器は毎日の料理に使う台所の要だから、妻は安かろう悪かろうでは絶対ダメと各メーカーを厳しく比較し購入した。
それなりに大きな出費だった。

取り付け工事はすんなり済んで、まずまず快適な使い勝手のうちに早や一年が過ぎた。
それまで全く問題は生じなかったが、つい先日、大きなトラブルが発生した。
表面のガラス製のトッププレートが大きくひび割れたのである。

何か固い鍋や皿を落としたわけではない。
普通に使っていて、ある日見たらヒビが入っていた。

一応そのまま使い続けることはできた。
しかし、翌日になるとひび割れの数が増えていた。
このまま使い続けるのは危ないし、完全に壊れてしまっては生活に大きな支障が出る。

ヤマダ電機に電話して、修理をお願いした。
原因がこちらの過失にあるならば有償とのことだが、それは仕方ない。
年末に差し掛かり、電気屋も一番忙しい時期だろう。
すぐに修理に来てもらえるかが一番心配だった。
年内に手配できず、壊れたまま年越しというのが最悪のシナリオだった。

それが昨日のこと。
今日、仕事から家に帰ると、妻がニコニコして迎えてくれた。
「お父さん、IH直ったよ」
「えっ?もう修理に来た?」

なんでも、トッププレートが割れるクレームが多発していたらしい。
製品に欠陥があったということか。

原因はプレートだけでなく、基盤にも問題ありと言うことで、そんぐり交換してくれたということだ。
もちろん無償である。

修理に来たのはヤマダ電機ではなく、Panasonicの修理工だった。
「ご不便をおかけして大変申し訳ありませんでした」と丁重に謝られたという。

製品に問題があったのならば、無償で修理するのは当然のことだろう。
ただ、今回の場合は、①迅速さ、②丁重さ の点においてとても感心させられた。

さすが一部上場の大会社Panasonic。
というより、いまだ松下幸之助イズムは健在なり!というところか。

こういう誠実な対応をしてもらえれば、次に何かを買うときも、このメーカーを選ぼうかという気になる。

かつて、FF式石油温風機の不具合で死亡事故を含めての不祥事が起こった時(2005年)、同社は「ナショナルから、大切なお知らせとお願いです」から始まる回収告知のコマーシャルを打った。
それはそれは徹底的な回数だった。

企業に問題が起こった時、隠し事をするとかえってブランドイメージを損なうという経営陣の危機感が根本にあったのだろう。
この対応はその後の日本の企業理念のお手本になったように思う。

業種は違えど、経営する上で大変勉強になった出来事だった。
IH調理器はリコールコマーシャルこそやっていないが、企業の姿勢を感じることができた。

待ちに待った寒波到来

ともすれば不謹慎だと怒られる話かもしれない。

が、待ち望んでいた寒波がようやくやって来た。
一発、雪でもドカンとくればさらにありがたい。

11月以降、台風など自然災害がほとんどなかったおかげで、今年の秋冬野菜は露地作を中心に全体的に大豊作となった。

豊作は良いこと?
いや、現代はそうとも言えない。
野菜の相場が落ちすぎるのだ。

農家にすれば、下手すれば輸送賃も出なくなる。
段ボール代も出なくなる。
作れば作るほど、出せば出すほど損をする状況に陥る。

流通業も損をする。
昔は値が暴落すればそれなりに引き受け手があった。
たとえば漬物屋がここぞとばかりに安値で大量に買う。
八百屋でも安くさばいた。
「需要>供給」の構造ならばそれが効いて、安いなりに量が動いた。

しかし、現代では売れる量は決まっている。
人々は必要な分だけ買えればよい。
必要を超える部分は「ただでも」要らない。

いやいや、11月と12月前半は家庭菜園も豊作で、一般市民が趣味で作った野菜が、成りすぎたために自家消費だけでは余りまくり、近隣の家々同士でただでやり取りしていたのだ。
ただで手に入るものをお金を出して買うことはない。

だから流通段階で売れ残り、滞留する。
滞留して商品が傷み、最悪廃棄になれば、そのロスは流通業の負担となる。

以前も書いたが、夏は暑く、冬は寒いことが日本の食においては「あるべき姿」なのだ。
夏は暑いからこそ冷たいものを体が欲し、トマトやレタスなどサラダ商材がメインとなる。
冬は寒いからこそ鍋物料理が食べたくなり、ダイコンや白菜、ネギなど加熱商材がよく売れるようになる。

そのサイクルが狂うと途端に需給バランスがおかしくなって値段が乱高下する。
特に「需要<供給」が長引くと利益を確保できない販売環境が慢性化する。

今も昔もこの業界は「お天気頼み」から抜け出せない体質がある。
「だから市場流通はダメなのだ」と厳しく言う人もいるが、ある程度は致し方ないことなのである。

だから、待ちに待った寒波到来である。
昨晩から雪が降った。
金沢はうっすらと白くなってすぐに消えたが、能登では20センチ積もった。

秋冬野菜の需要が高まるのはもちろんだが、収穫前の農産物の生育が鈍る。
雪が積もれば、収穫作業も滞る。
必然的に流通量が減って、供給過多が解消される。

大雪・豪雪は困りものだが、キュンと冷えてうっすら積もる程度の雪景色が一番よろしい。
そんな都合の良い具合は望むべくもないが、近年、異常気象の連続で翻弄され続ける中、時々はこちらに有りがたい環境がやってきてもバチは当たらないと思うのだが。

青果物の週間情報 【2020-W51】

■週の概況 第51週 12/14(月)~ 12/19(土)

【全体】
 11月から低レベルな市況に悩まされてきた野菜は、ここにきてようやく変化が出てきた。消費は今一つながら、九州地方や岐阜県などは雨が降らず干ばつとなり、葉物野菜を中心に生育が進まず不安定な状況となっている。この週は今季一番の寒気が流れ込んで降雪も見込まれることから、大多数の品目で数量が減少すると思われる。冬商材は引き合いも強まるため、この週、相場は底上げを見せるだろう。ただし、本格的な年末需要はその翌週からであり、モノの確保に困るほどではない。問題はその次で、寒波・降雪の程度しだいで年末年始にひっ迫する品目が出る可能性あり。現時点で何がそうなるかは不明で、この週はよく目を凝らすのが重要だ。日々の物量の変化・価格の上下動は予想を超えて変化スピードが速くなっている。

【野菜】
 白菜、キャベツは依然として安値低調、苦しい状況が続いているが、週の後半から浮上する可能性がある。その他の葉茎菜類はおおむね強含みを見込む。ねぎは堅調な値動きを見せ、ホウレン草は干ばつで減少し価格は上げ予想。ブロッコリー、レタスも低迷を脱し上げの見通しである。ただしどの品目も長い低迷からの回復であり、それほどの高値感には到らないのでは。キノコ類は安定保合の見込みで、18日には原木椎茸「のとてまり」の初せりを迎える。
 果菜類・豆類も上げる品目が多くなる見込みだ。胡瓜、ナス、インゲンなどは数量減少し価格上昇、トマトは愛知県産が安定しており保合予想である。
 根菜土物類では大根・かぶら・にんじんは依然として低調で苦戦が続いておりこの週も安値保合予想。ただし底を打った感はあり、動きも少しずつ良くなっていく。レンコン、サツマイモは大玉が不作で品薄高値、小玉が売れ行き悪く安値という、サイズによって両極端な市況となっており、この傾向はシーズン通し長期的に続く。馬鈴薯・玉葱は北海道の残存数量を見ながらの出荷となり、年末に向けてしばらくはジリ上げの展開が続くだろう。くわいは小玉傾向ではあるが、数量は前年並み・計画通りの入荷を見込む。

【果実】
 国内果実では、リンゴは志賀高原産が終わり、豊野及び青森からの入荷となる。みかんは早生種・普通種混在で福岡・長崎・和歌山等から潤沢な入荷となる。デコポンは大玉傾向、紅マドンナは週2回の予定。シャインマスカットや冨有柿は冷蔵物の入荷となる。出荷ピークとなるころ柿は、今季は小玉傾向で大玉のギフト用は少ない傾向だ。キウイは福岡県産中心だが、平年より2割程度少ない作況である。いちごはクリスマス需要で今後ジリ上げの展開となる。値が高いため一般消費の動きは鈍く、しばらくは業務向けが中心となろう。
 輸入果実はバナナを筆頭にオレンジ、グレープフルーツ、キウイ、マンゴーなど前週から変わらぬ安定した入荷となる。全体的にこの週は穏やかに過ぎるが、次週よりパインなどで動きが活発化してくる見込みだ。アボカドは動きが鈍くやや弱い市況である。

柔道世紀の一戦 阿部対丸山

青:阿部一二三、白:丸山城志郎
奥の審判が天野安喜子主審

世界一を決める舞台ではない。
観衆もいない。
しかし、紛れもない名勝負、後世に語り継ぐべき一戦だった。

本日13日、講道館で開催された柔道男子66kg級東京五輪日本代表内定選手決定戦、丸山城志郎 対 阿部一二三。
23歳の阿部(パーク24)が27歳のの丸山(ミキハウス)に24分に渡る激闘を制して勝利し、来年の五輪代表に決まった。

人気はどちらかというと阿部一二三が勝っていただろう。
さわやかで明るいイメージは天性のもので、若々しくハンサム、なんといっても妹・阿部詩(うた)と兄妹そろって五輪金メダルを狙うという話題性は大きい。

しかし丸山も非常に精悍な顔つきの好男子であり、スター性は両者とも持ち合わせていた。
2015年から始まる二人の頂上決戦はまさにしのぎを削る戦いの連続で、ここまで丸山の4勝3敗とわずかに丸山が優勢だった。

両者の実力があまりに拮抗しており、コロナ禍で代表決定となる大会が次々中止に追いやられたため、この階級だけは今日まで代表者が決まらなかった。
いつまでたっても白黒つけられず、宙ぶらりんで待たされる両者の心境はいかばかりだったろう。

ついに代表決定のためだけに試合が組まれた。
柔道の聖地・講道館での無観客試合。
無観客でもテレビやインターネットで放映されたため、全国民が注視した。
ある意味残酷なやり方だが、一番いさぎよい形でもある。
過去数戦を総合的に評価してのグレーな選考より、選手自身の納得感は大きいだろう。

試合はテレビ東京が生中継したが、24分という想定外の長時間に渡ったため、試合途中で放映終了という大失態を演じた。
そもそもテレビ東京では当地金沢に放映されない。
こういう世紀の一戦はNHKがやらねばならぬ。
当然決着がつくまでのエンドレスで。
この試合の意義をマスコミは理解していないのか。

丸山は敗れた。
しかしこれで終われない。代表補欠に回るからだ。
「僕の柔道人生は終わっていない。これからも前を向いて精進していく」とインタビューに応えたという。
素晴らしいコメントだ。

日本人は昔から、敗者に対しても勝者と変わらぬ(時にはそれ以上の)熱い思い入れを注ぎ込むことができる。
敗者の美学だ。
これは日本人の豊かな情緒だと思う。

丸山城志郎には後世も消えることなく賛辞を送り、この名勝負を語り継いでいくべきだ。

【丸山城志郎と阿部一二三の対戦記録】
2015年11月7日 講道館杯準々決勝
○丸山 優勢(有効 巴投げ) 阿部● 5分

2016年4月3日 全日本選抜体重別決勝
●丸山 優勢(指導2つ) 阿部○ 6分27秒

2017年12月2日 GS東京決勝
●丸山 一本(大内刈り) 阿部○ 4分52秒

2018年11月23日 GS大阪決勝
○丸山 優勢(技あり 巴投げ) 阿部● 5分3秒

2019年4月7日 全日本選抜体重別決勝
○丸山 優勢(技あり 浮技) 阿部● 13分23秒

2019年8月26日 世界選手権準決勝
○丸山 優勢(技あり 浮技) 阿部● 7分46秒

2019年11月22日 GS大阪決勝
●丸山 優勢(技あり 支え釣り込み足) 阿部○ 7分27秒

2020年12月13日 東京五輪日本代表内定選手決定戦
●丸山 優勢(技あり 大内刈り) 阿部○ 24分

この試合の主審に抜擢されたのはなんと女性だった。
天野安喜子氏。
江戸時代から続く宗家花火鍵屋の15代目花火師でもあり、女性審判の第一人者でもある知る人ぞしる存在だ。

柔道界は、2017年まで全日本選手権における女性審判を認めなかった。
それほどに古い体質だった。
今回この試合ほどクリアな勝敗付けが求められる試合はまず考えられない。
その大一番に天野氏を起用したのは、純粋に「今、一番うまい」からだそうだ。
そしてその期待に見事に応えた審判ぶりだった。